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第96話
「私の頭をぶち抜く?ハッ、中が見えないのに何言っているんだ」
少し動揺の色を見せたが、すぐに平常に戻る早川さんは俺を無理矢理抱き起こして、自分の前に立つように指示する。
俺を盾にしようと考えたのだろう。だけど、俺を前にして本当にいいのだろうか。
だって、鍵を開けれる。
カチャ、という金属音の後、扉が開かれる。
会いたくて、会いたくて堪らなかった蓮さんに素早く抱きつき、後から手を伸ばす早川さんを蹴り倒すもう1人の男性……先程蓮さんの会社で会った秋山さんだ。
「夏樹、大丈夫……ではなさそうだな……。遅れてすまん。すぐに病院に行こう」
「れんさん、れんさん……怖かった、もう離れないで……!」
ずっと我慢していた糸が切れて、子どものように縋り付き、わんわんと泣く。
そんな俺を優しく抱き締めてくれる蓮さんの温かさが安心した。
「真太郎、そいつ好きにしていいから」
「まじ?ラッキー」
秋山さんは手に持っていた、明らかにオモチャの銃ではない、重みのある本物の拳銃をクルクルと回し、早川さんの額にくっつける。
「ひ、人殺しが許されると思っているのか!?」
「許されないよねぇ。だからそれなりの覚悟を持っているつもりだよ。さて、どうしてやろうかな~」
早川さんも変わっていると思ったが、秋山さんももっと変わっている。と言うか、サイコパスだ。
蓮さんに抱っこされて、公衆トイレから出る。
「ここからはあまり見ない方がいい。専門職に任せよう」
専門職……とはどんな職業の事を指すのか、夏樹には到底思いつかなかった。
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