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第108話
*
「痛っ!!」
「だから言っただろ」
朝起きて、激痛に悶えていた。昨日は痛くなかったが、朝起きると物凄く痛かった。
冷静になると、昨夜は自分でもビックリするくらい大胆なコトをしてしまった……。思い出して顔を真っ赤にしていると、蓮はニヤニヤ笑って夏樹を抱き抱えた。
「なに想像してたんだよ、エッチ」
「ち、違うし!てか、痛いんだからゆっくり運んでよね!」
「はいはい、お姫様の仰せのままに」
そこは「王子様」だろ。と心の中でツッコミをいれるが、お姫様抱っこされてる王子様なんていないだろう。もうなんでもいいや。
お尻が痛い人でも座れる真ん中に穴の空いたクッションの上に下ろされた。下に直接お尻が着かないのでかなり楽だ。これを作った人は天才だ、と感動していると蓮が朝食を運んできた。
蓮は料理が苦手だが、パンを温めるくらいは出来るので、この前買っていたクロワッサンを温めてもらった。
「ありがとう」
「このくらい気にするな。 食べさせてやろうか?」
「手は使えるからいらない」
そう断ると、蓮は少し残念そうな顔をしていたが知らないふりをしておいた。
誰かに食べさせてもらうなんて、そんな子どもみたいな事できない。これは甘えというか、介護みたいになりそうだな。
クロワッサンを頬張ると、優しい甘さとバターの香りが口いっぱいに広がった。オーブンで焼いたので外はカリカリ、中はしっとりしていてとても美味しかった。さすが、少し高いだけあってスーパーで売ってるクロワッサンより何百倍も美味しかった。パン好きにとって最高に幸せな瞬間だ。
「そうだ。今日、しんたろ……秋山が来るらしい」
「あぁ!秋山さん!俺、助けて貰ったのにお礼言えてなくて。良かったぁ」
「……まぁ、頑張れよ」
秋山さんにお礼を言うのを頑張れという事か?
蓮の言った「頑張れ」の意味が分からず、首を傾げていると、頭をポンポンと優しく撫でられた。
「お前の思ってる事を、きちんと伝えたらいいと思う。言わないと伝わらない事もあるだろうから」
「……?う、ん?分かった……」
この時は、まだ全く意味が理解出来なかった。
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