109 / 114

第109話

朝食を食べ終え、パジャマ代わりに着ていた蓮のダボダボの服を脱ぎ、きちんとした服に着替えた。 春樹が帰らない今、あの家に一人で居ても寂しいし、余計な心配をして不安になる為、春樹が家出中の間だけ蓮の部屋に居候させてもらっていた。だからある程度の私物は蓮の部屋に置かせてもらっているのだ。 「もう一緒に住めばいいのに」 「ダメだよ。そうしたら、春樹が帰る家が無くなっちゃう」 「そうか?大丈夫だと思うけど」 いや、何も大丈夫じゃないだろう。ずっと彼女の家にいる訳にもいかないだろうし、迷惑になってはいけない。追い出されて、帰る家が無ければホームレスになってしまうではないか。 それはダメだ。 それを防ぐ為には、兄の夏樹が待っていてやらなくては。 「うっ、いったぁ!立ってるだけなのに何でこんなに痛いの!」 「昨日無理するからだ。……と言っても、俺のせいでもあるからな。面倒は見るぞ」 「介護だな」 「介護じゃねぇよ。可愛い恋人の面倒見てるだけだ」 それを一般的には介護と言うのだ、と夏樹は思った。 あまり誰かに世話をしてもらうのは苦手なので、素直に喜べない部分がある。自分が世話するのならいいのだが、逆になるとなんか違うなと思うのだ。 そんな話をしていると、ピンポーンとチャイムが室内に響いた。 きっと秋山さんだろう。 蓮と一緒に壁伝いにぎこちない歩きで玄関へと向かう。ドアを開くと、やっぱりイケメンな男性、秋山さんが立っていた。 「こんにちは。急にお邪魔してごめんね」 「いえ、先日はありがとうございました!お陰で助かりました!」 「うん、無事で良かったよ。アイツも居なくなったし、良かったね」 爽やかな笑顔で笑う秋山の「アイツも居なくなった」とはどういう意味だろうか……。もう亡くなったという意味なのか、あの場所から居なくなったという意味なのか。怖くて聞けなかったし、聞きたくもなかった。 「あと、もう1人いるんだよね。ほら、いつまで隠れてるの?」 「……久しぶり。兄さん」 背の高い秋山の後からひょこっと顔を覗かせたのは、数日ぶりに会う我が弟だった。

ともだちにシェアしよう!