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第111話

「嫌いになる訳ないじゃん!俺のたった一人の家族なんだよ!?いつも俺の為に頑張ってくれてたの知ってる! 援交だって、俺が高校に行くための費用を稼いでるんだって、本当は気付いてた!でも、でも、俺の為にそこまで頑張らなくてもいいじゃん!自分の為に生きればいいじゃん!ってずっと思ってた。 俺は、兄さんの邪魔になりたくない……。せっかくの人生が、俺のせいでめちゃくちゃだ……」 「春樹、それは違うよ」 ボロボロと涙を零す弟を抱き締めて、うちで使っているシャンプーとはまた違う香りのする髪を優しく手で梳きながら続ける。 「俺はね、春樹と一緒に居られるのが幸せ。春樹は俺の光で、生きる希望だよ。邪魔だなんて、一度も思った事ない。 援交は……それが一番手っ取り早くお金が稼げる方法だったから始めただけで、後悔はしてないよ」 蓮さんにも出会えたしね、とニッコリ微笑むと更に大粒の涙を流しながら胸に擦り寄ってくる春樹。 あぁ、こういう泣き方も変わらない。小さい頃、共働きな両親に変わって春樹のお世話をしていたっけ。「ママに会いたい」とよく泣いていたのを思い出す。 「それに、今はもう辞めたんだよ?……春樹は、まだ続けてるの……?」 「俺、援交してないよ」 その言葉に、目が飛び出るんじゃないかと思うくらい目を見開いた。 それを先に言ってくれたら、喧嘩せずに済んだのでは!? 「お金は貰ってたんだけど、その人とは……今は付き合ってるから……。それに、アンナちゃんが言ってたんだ。『自分の気持ちを正直に伝えるのよ』って」 「うん……」 きっとその、アンナちゃんって子が春樹の恋人なんだろうなと思った。 春樹のかしこまった表情に、思わず夏樹も身構える。 「あのね、俺……真剣にお付き合いしてるの。高校は行くから、その人と同棲も考えてて……。それだと兄さん、寂しくなる?」 「そう、なんだ……。実は俺も、一緒に住もうって言われてて……。一緒のタイミングだね」 ふふ、と笑うと春樹の表情が少し緩んだ気がした。

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