6 / 23
向こうの世界
久々に昔の夢を見た。あいつに出会う前のこと。
明日の景色も見えない、ただその日暮らしを繰り返す日々のこと。
霞んで光すら届いていたか分からない、生きるか死ぬかの世界。
記憶にあるのはそれだけだ。
思い出すつもりもないし、思い出したくもない。
空想の世界だったら憧れるやつもいるかもしれないが、ただ一言投げてやりたい。
ろくでもなかった、と。
この話はもうこれまでだ。俺は横たわっていたソファから起き上がった。
「おや、起きたんだね」
「おう」
「昼寝なんて珍しいね。……夢見が悪かったかな?」
あいつには俺のことが何でもお見通しだ。項垂れながら頷こうとしたら、身体にあいつの感触がした。
「俺がいるからね」
(この作品は第48回Twitter300字ssの企画に参加した作品です)
ともだちにシェアしよう!