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新たな一緒

 うっかりしたことに、俺が今まで愛用していたカップを割ってしまった。  あいつは大丈夫だ、と言っていたが、どこか寂しそうな表情をしていた。  俺がここに来てからずっと使っていた、おそらく一番付き合いの長いものだった。  あいつにとって特別な愛着があったのかも分からない。  そんなことを考えながら、気付けば一人で財布を持って外に出ていた。  あまり出掛けることがないから、何だか少し不安を覚える。それでも、必要なものを買いに行くためにここにいる。  人の溢れるこの場所に長居はするつもりがないが、目的のものがなかなか探し出せない。  複合施設のビルに入り、目的の店があるであろう階へと上っていく。  今日は休日なのだろうか、とても人が多い気がする。  俺は思わず気配を殺していた。昔からやっていたため、無意識のうちにやってしまう。もう、そんな必要はないはずであるにも拘わらず。  すぐに目的の階に到着すると、俺に似合わないようなものが多く並んでいる。色鮮やかなそれらのものは、とても縁のないものばかりであった。  そんな中に、カップは並んでいる。だが、俺が求めているものとは色合いが異なっていた。  視線を次の場所へと移す。案外簡単に見つからないものだな。  今度は少し落ち着いた雰囲気の店だ。ここなら俺も少し安心できるような店だ。  そこそこ混み合った店内を探り、ようやく目的のものを見つける。  今まで使っていたものと似たような色合いではあるが、やけに大きい。大は小を兼ねる、といった言葉があるが、それにしては大きすぎる。  他にもないか見渡してみるが、どうやらここにはないようだ。  諦めて別の店へ行こう。  そうして再び店の外へ出ると、端にある店が目に入った。やけに目立たないその店が、俺の目には不思議と馴染み深いように感じられた。  呼ばれるようにそこへと入っていくと、誰もいない店の中にゆとりの持たれた商品の数々が並べられていた。  のびのびと息をしているそれらに、俺は思わず目移りさせていた。  今度、あいつと一緒にゆっくりと見てみるか。  そんなことを考えていると、目当てのものを見つけた。  藍色とグレーの、同じ形のもの。求めていたものがあった。  俺はその二つを手に取り、会計するためにレジへと向かった。  帰宅すると、寝ていたはずのあいつは起きていた。 「……ただいま」 「おかえり。何、してたの?」 「カップ、割ったから買ってきた」 「へぇー。見せて」  俺はテーブルの上に置き、丁寧に梱包されたそれを剥く。  そこに現れたのは、藍色のカップとグレーのカップだ。  思いがけず二つ現れたせいか、目を丸くしていた。 「……ちぐはぐは気に食わないからな」 「っ……。そうだ、そうだったね」  あいつは俺に抱き着いてきた。肩をぎゅっと抱き締め、もう片方の手で頭を撫でる。 「く、苦し……」 「ありがと。嬉しいよ。そうだ、早速これで何かを飲もう」 「そうしたいんなら、その手を離すんだな」  名残惜しいが、そうしないと動けないので、あいつの束縛から開放されたところで、カップを持ってキッチンへと向かった。  さて、何を淹れようか。  そう考えている時間もやけに楽しかった。 (Twitterの創作BLワンライ&ワンドロ!への参加作品です。お題は「お揃いのコップ」です。)

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