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言葉の具現

 とある歌の最後に『咽び泣く』で終わる。この言葉は普通に使わないよね、と歌う本人はそう言っていた。  そんな状況は一体どこにあるのか、と俺もそう頷くようにその言葉を受け取った。  しかし、あいつはそれを真っ向から否定してきた。 「俺はあると思うけどなー。こう、堪えながら、静かに涙を流す感じ?」 「どういう場面だよ」 「んーそうだねー……。いつも元気な人が、体調を崩して寝込んでいるとき?」  それは俺のことなのか。  冗談だか分からないその言葉が受け流せず、言葉に詰まってしまった。 「ごめんごめん、泣かないの」 「……泣いてない」 「潤んだ瞳、そこから静かに……」 「言わんでいい!」  あいつのペースに乗せられるところだった。 (この作品は第51回Twitter300字ssの企画に参加した作品です)

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