9 / 23
出るもの出ないもの
「あはははははっ」
目の前にいるこの男は、勝手に買ってきたサングラスを俺に掛け、勝手に腹を抱えて笑っていた。随分と失礼なものだ。
だが、俺自身もサングラスは似合わないという自覚は大いにある。普段からシャツとズボンというラフな格好で、柄も悪くなる。嫌なものだ。
いい加減に室内で掛けているのも嫌になってようやく外すが、あいつは笑ったままだ。
怒りもどこかへ消え去り、溜め息すら出てくる。
「おい、そろそろいいだろ」
「ははっ……。いやー、似合わないって思ってたけど、本当に似合わないね」
「…………」
ここまで失礼な物言いは久々だ。
これ以上言葉が思い浮かばない俺は、いらなくなったものを買った当人の手に置く。
「あれ、もういいの?」
「似合わないもんしてたってしょうがないだろ。そもそもなんで買ったんだ」
「かっこよかったから?」
「使うのか?」
「出掛けないから使わないね」
どうしたらそんなことを堂々と宣言できるのか。
頭が痛くなってきたような気がした。額に手を当てながら、思わず溜め息を漏らしていた。
「まぁまぁ、そんな溜め息ついてたら幸せ逃げちゃうよ」
「じゃあ無駄に金が出ていくのをどうにかしてくれ」
「そうだねー……」
あいつは突然立ち上がり、俺の方へと近付いてくる。
目の前にあいつの顔が迫る。
次の瞬間、唇に柔らかい感触が現れ、優しい温もりが俺を包み込む。
しばらくするとスッと離れ、間近に息が掛かる。
「幸せが留まってくれたら、お金も留まってくれるかも」
痺れるような感覚が全身に響き渡る。
これはもう、俺がどうにかするしかないのだろう。
(Twitterの創作BLワンライ&ワンドロ!への参加作品です)
ともだちにシェアしよう!