14 / 23

2人のブレイクタイム

 あいつがいつもと違う。  普段はコーヒーを淹れるのですら俺に任せっぱなしのあいつが、今日は自分でやっている。  一体どういう風の吹き回しなのだろうか。  不気味に思いつつも、俺はあいつに近付いていく。 「おい、突然どうしたんだ?」 「ん? 特に何もないよ。ただ、やってみたいだけ」 「……本当は?」 「描写が分かんなくて詰まった」 「それをやって片付けるのは誰だと思ってるんだ?」  あいつはゆっくりと俺から視線を逸らし、動かしていた手を止める。そしてそれを何も言わずに俺にやらせようとする。  困ったものだ。いくら必要なためとはいえ、俺の手間を少しは考えてほしい。  はぁ、と思わず溜め息を付き、俺はじっとあいつを見る。 「時間があるうちは一人でじっくりやるのもいいが、急いでるんだろ? 俺に聞け」 「……だって、忙しそうにしてた」 「もう終わった。いくらでも聞け」  そう言うと、あいつは俺の方を見ながらこちらへ近付いてきた。  肩口へ顔を埋めながら、背中にそっと手を回してくる。  不意にあいつの感覚に包まれ、嬉しさが込み上げてくる。  たったこれだけの行為で俺は全てを許してしまう。それでも、たまには悪い気分はしない。 「ねぇ」  あいつは俺に呼び掛けると同時に顔を上げ、そして唇を押し付けてきた。  あまりにも不意打ちすぎる心地よさに、俺はぎゅっと抱き締めていた。この感覚を離さないように、ただそれだけを思っていた。  こんな戯れはいつぶりのことだろう。あいつは最近忙しそうにしていた。だから必要最低限の関わりしかなかった。  互いに火が点いたように夢中になっていた。角度を微妙に変え、動きを付けて触れ合っている。  このままずっとこうしていたいという感覚が広がっていく。  頭がぼんやりとしてきたところで、あいつの方から離れていった。 「ねぇ、美味しいコーヒーの淹れ方教えて?」  首を傾げながら甘えるようにそう言ってきた。  そんな風に言われた俺の答えは決まっている。 「あぁ、もちろんだ」 (この作品は『いつもと違う』をテーマに書きました)

ともだちにシェアしよう!