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2人のブレイクタイム
あいつがいつもと違う。
普段はコーヒーを淹れるのですら俺に任せっぱなしのあいつが、今日は自分でやっている。
一体どういう風の吹き回しなのだろうか。
不気味に思いつつも、俺はあいつに近付いていく。
「おい、突然どうしたんだ?」
「ん? 特に何もないよ。ただ、やってみたいだけ」
「……本当は?」
「描写が分かんなくて詰まった」
「それをやって片付けるのは誰だと思ってるんだ?」
あいつはゆっくりと俺から視線を逸らし、動かしていた手を止める。そしてそれを何も言わずに俺にやらせようとする。
困ったものだ。いくら必要なためとはいえ、俺の手間を少しは考えてほしい。
はぁ、と思わず溜め息を付き、俺はじっとあいつを見る。
「時間があるうちは一人でじっくりやるのもいいが、急いでるんだろ? 俺に聞け」
「……だって、忙しそうにしてた」
「もう終わった。いくらでも聞け」
そう言うと、あいつは俺の方を見ながらこちらへ近付いてきた。
肩口へ顔を埋めながら、背中にそっと手を回してくる。
不意にあいつの感覚に包まれ、嬉しさが込み上げてくる。
たったこれだけの行為で俺は全てを許してしまう。それでも、たまには悪い気分はしない。
「ねぇ」
あいつは俺に呼び掛けると同時に顔を上げ、そして唇を押し付けてきた。
あまりにも不意打ちすぎる心地よさに、俺はぎゅっと抱き締めていた。この感覚を離さないように、ただそれだけを思っていた。
こんな戯れはいつぶりのことだろう。あいつは最近忙しそうにしていた。だから必要最低限の関わりしかなかった。
互いに火が点いたように夢中になっていた。角度を微妙に変え、動きを付けて触れ合っている。
このままずっとこうしていたいという感覚が広がっていく。
頭がぼんやりとしてきたところで、あいつの方から離れていった。
「ねぇ、美味しいコーヒーの淹れ方教えて?」
首を傾げながら甘えるようにそう言ってきた。
そんな風に言われた俺の答えは決まっている。
「あぁ、もちろんだ」
(この作品は『いつもと違う』をテーマに書きました)
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