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Greatful Letter

 あいつが書いたとは思えないような、愛だの恋だのが詰まった手紙らしきものがソファ前のテーブルに置かれていた。  まるでファンタジーに出てくるような魔法といったものを描いているような、俺たちには似つかわしくない、とてもキラキラしたことが書かれている。  そう捉えれば、少しはあいつらしいものなのか。 「もう、何見ちゃってんの?」  そんなことを考えていると、後ろからあいつに話し掛けられた。そしてさり気なく俺の手から紙を奪い取っていった。 「まだ書きかけで、あんまり見られたくないんだけど」 「だったらこんなところに無防備に置くな」 「はいはい。分かりましたよっと」  そう言うと、あいつは部屋に戻っていこうとした。  リビングから出ようとしたところで、顔だけこちらを振り返る。 「俺たちは一つ、かな。次はそんなやつでも書くよ、──」  あいつの想いがたくさん込められた状態で名前を呼ばれた。  これは閃いたということだ。けれども、きっとすぐにエネルギーが切れてしまうだろう。  俺はコーヒーと菓子の準備を始めた。  閃いて疲れたときの組み合わせは必ず決まっている。それらをトレーに並べ、あいつが籠もる部屋へと向かう。  予想通り、あいつは頭の中のものを出し切って机に突っ伏していた。 「まだあるのか?」 「もう一つ……」 「少し休め」  トレーをあいつの横に置こうとしたそのとき、宛名の書かれていない手紙を見つけた。  それを手にしながらそこへトレーを置き、それを見る。 『唯一無二の俺のもの』  一気に顔が赤くなってきた気がした。  たった一言しか書かれていないが、これは俺のことに違いない。 「やったー、今日はこの組み合わせだ」  呑気にそんなことを言って休憩しているあいつの飄々とした姿が、なんだかとても俺の心を複雑なものにさせていたのであった。 (この作品は『名無しの手紙』をテーマに書きました)

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