15 / 23
Greatful Letter
あいつが書いたとは思えないような、愛だの恋だのが詰まった手紙らしきものがソファ前のテーブルに置かれていた。
まるでファンタジーに出てくるような魔法といったものを描いているような、俺たちには似つかわしくない、とてもキラキラしたことが書かれている。
そう捉えれば、少しはあいつらしいものなのか。
「もう、何見ちゃってんの?」
そんなことを考えていると、後ろからあいつに話し掛けられた。そしてさり気なく俺の手から紙を奪い取っていった。
「まだ書きかけで、あんまり見られたくないんだけど」
「だったらこんなところに無防備に置くな」
「はいはい。分かりましたよっと」
そう言うと、あいつは部屋に戻っていこうとした。
リビングから出ようとしたところで、顔だけこちらを振り返る。
「俺たちは一つ、かな。次はそんなやつでも書くよ、──」
あいつの想いがたくさん込められた状態で名前を呼ばれた。
これは閃いたということだ。けれども、きっとすぐにエネルギーが切れてしまうだろう。
俺はコーヒーと菓子の準備を始めた。
閃いて疲れたときの組み合わせは必ず決まっている。それらをトレーに並べ、あいつが籠もる部屋へと向かう。
予想通り、あいつは頭の中のものを出し切って机に突っ伏していた。
「まだあるのか?」
「もう一つ……」
「少し休め」
トレーをあいつの横に置こうとしたそのとき、宛名の書かれていない手紙を見つけた。
それを手にしながらそこへトレーを置き、それを見る。
『唯一無二の俺のもの』
一気に顔が赤くなってきた気がした。
たった一言しか書かれていないが、これは俺のことに違いない。
「やったー、今日はこの組み合わせだ」
呑気にそんなことを言って休憩しているあいつの飄々とした姿が、なんだかとても俺の心を複雑なものにさせていたのであった。
(この作品は『名無しの手紙』をテーマに書きました)
ともだちにシェアしよう!