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甘く溺れる

 息抜きと言いながら、あいつはきっと買い物に出掛けた。  流行りのことには興味がないと言いながら、きっとあいつは俺のために買ってくるのだろう。  だから、俺はガトーショコラを作って待っている。  あいつに甘味を作ることはすっかり日課になっている。だから、その中にあいつに対する想いを込めたっていいだろう。 「ただいまー」  あいつは手に小洒落た包みを持ちながら帰ってきた。  だが、俺に差し出すわけでもなく突然口を開けてきた。行儀が悪いと口に出しながら、できたばかりの一口を差し出す。  言葉が出なくても、あいつの表情を見るだけで美味いかどうかが分かる。いつもより幸せそうな表情が浮かんでいる。 「ふふっ」 「どうした?」 「何でもないよ」  そう言いつつも、あいつのことだ。俺の意図にはとっくに気付いているだろう。  俺にどんな変化があっても、あいつのことは好きでいる。 「そういえば、何買ってきたんだ?」 「これ? 美味しいやつ」  包みを剥がしながら、中から芸術的なチョコレートが出てきた。それを一つ掴むと、そのまま俺の口に近付けてきた。  条件反射のようにそれを食す。  たまには流行りに乗っかって浮かれるのも悪くない気がする。

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