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第3話

※―※―※―※―※ 日々は何も変わらず過ぎていき、吉埜達は中学の卒業シーズンを迎えていた。 3年になっても吉埜と古賀は同じクラスで、朋晴は隣のクラス。 その為、吉埜と古賀はだいぶ親しくなっていた。…と言っても、古賀の性格は相変わらずで、吉埜相手に緊張する事はなくなっていても、どこか恥ずかしそうにしている部分は健在だ。 ただ、吉埜は気付いていた。3年の秋を過ぎたころから、少しずつ古賀の体型が変わってきていた事に。 「もうすぐ卒業か…」 「うん」 「過ぎちゃえばアッという間だったよな」 「そうだね」 数日後に卒業式を控え、午前中にリハーサルをやる事になった土曜日。 そのリハーサルも終わってしまえばみんな早々と帰ってしまい、昼を過ぎた今、教室に残っているのは吉埜と古賀だけになっていた。 後輩の女子に引きずられてどこかへ拉致られてしまった朋晴を待っている吉埜は、一緒に待ってくれている古賀と二人並んで窓際でボーっとしていた。 窓の桟に座っている吉埜は、隣に立っている古賀に視線を向ける事なく、青い青い空を眺めて思い出を噛みしめるように呟く。 吉埜は気が付いていなかったが、古賀はそんな吉埜をずっと見つめていた。 陽に透ける茶色い髪と、人形のように白い肌。そして、眩しいのか僅かに細められた両目。 大勢でいる時にはあまり見せない物静かな吉埜の姿に、古賀は静かに見惚れていた。 「…お前さ…」 「…え?」 そんな吉埜が突然振り向いた事で思いっきり目が合ってしまった古賀は、見つめていたのがバレてしまったかとアタフタしてしまったが、吉埜は視線にまったく気づいておらず、「なに慌ててんだよ」と可笑しそうに笑っただけ。 ホッと安堵に脱力している古賀を見て、吉埜は改めて口を開いた。 「お前、最近体重計乗った?鏡見てる?」 「…体重計?…鏡?」 途端に不安そうになった古賀を見て、吉埜は言葉が足りなかった事に気が付いた。 「いや、そういう意味じゃないから、そんな泣きそうな顔するなよ」 古賀は、悪い方の意味で言葉を捉えてしまったらしく、吉埜はすぐにそれを否定した。 「お前さ、だんだん痩せてきてるって気付いてる?」 「………え?」 どうやら全く気付いていなかったらしい。 古賀は、呆気にとられた顔で吉埜の顔を凝視した。 そのポカンとした珍しい表情に、吉埜は抑える事なく笑いだす。 「その長い髪に隠れてみんな気付いてないっぽいけど、お前、痩せてきたよ」 「………そういえば…、最近制服のズボンが落ちそうになってきてて…」 どうやら古賀は、それが痩せた事から起きる現象だとわかっていなかったようだ。自分自身に興味が無いにも程がある。 更に吉埜は気付いていた、痩せてきたおかげで顔の肉が消えていき、埋もれていたパーツがはっきりと現れてきている事を…。 髪と眼鏡で隠れてしまっているが、痩せてきた古賀は、顔の美醜に興味の無い吉埜でも驚くほど整った面立ちを見せはじめていた。 このまま標準まで体重を落とし、髪を切って眼鏡をやめれば、古賀は間違いなく高校に入ってからモテるだろう。 今日までずっと苛められてウザがられていた古賀に、新しい人生を送るチャンスがやってきた。 相手の外見に左右されない吉埜だって、人間が感情の生き物だという事を知っている。 だから、外見で人を判断するのは、仕方がないといえば仕方がない。 そういう意味で、外見が良いというのはひとつのチャンスだ。 外見が悪いと、いくら中身が良くてもそれに気付いてもらえない事が多々ある。 だが、外見が良ければ自然と人は寄ってくる。 そうすれば、古賀の中身が良い事に皆が気付く。 嫌な事を言われ続けても、「大丈夫」「平気」しか言わなかったけど、吉埜は、古賀の瞳の奥に悲しそうな色が浮かんでいたのを知っていた。 優しい古賀には、楽しいと思える高校生活を送ってほしい。 吉埜は、まるで親になったような気持ちで見守ってきたが、ようやくその時がやってきた事を悟った。 多少強引にでも、この春休みで古賀を変身させるつもりで、内心ひそかに気合いを入れる。 「俺、古賀に迷惑がられても、お節介と思われても、どうしてもやりたい事があるんだ。春休みの二週間、それに付き合ってほしい」 「うん、わかった。渡来君の事をそんな風に思うわけないし。なんでも言ってね」 絶対に拒否されないとわかって言った自分の身勝手な言葉に、少しだけ申し訳ない気持ちが浮かんだが、吉埜は無理矢理それを振り払った。 「あれ、古賀もいたんだ?」 ちょうど二人の会話が途切れた時に、拉致から解放された朋晴が姿を現した。 吉埜に近づき、「待たせて悪かったな」と言いながら、柔らかい猫っ毛をグシャグシャに撫でまくる。 朋晴の腕を掴んで阻止しようとするも力の差は歴然で、結局吉埜はヘッドロックをかまされて大人しくなった。 「今日の子、二年の女子で一番可愛いって言われてた子だろ?OKしたのかよ?」 肩に触れる幼馴染の体温が心地良く、目を細めながら吉埜が問うと、朋晴は軽く鼻先で笑った。 「もう卒業だろ。今この時期にここで彼女作る気なんてないよ。今はお前も彼女いないし、それに合わせてやったんだよ、感謝しろ」 「あははは!またそうやって俺のせいにしようとする!」 首に回っている朋晴の腕をバシバシ叩きながら楽しそうに笑う吉埜を見て、古賀は二人にばれないようにひっそりと溜息をこぼした。

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