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第6話
高校生活の初日は、恒例の自己紹介から始まり、それが終わると次は身体測定が待っていた。
「古賀静流、182センチ」
「でかッ!」
思わずといった調子で周囲から上がる声に、言われた本人は控えめに…そして恥ずかしそうに微笑むだけ。
既に古賀は、クラスの癒し要員に認定されていた。
「渡来吉埜、170センチ」
「お、伸びてる」
吉埜は、一年前より5センチも伸びていた事を知り、喜びを隠しきれない。
「梁川亜海、162センチ」
「あれ?変わってないや」
横からブツブツと不満そうな声が聞えてきたが、吉埜にしてみれば、それ以上伸びるな!と言いたい。というより願いたい。亜海の背が今以上に高くなったら、絶対に弄られそうな気がする。
古賀までとは言わないが、目標は175センチ。頑張ってあと5センチ伸びてくれ。
自分にそんな気合いを入れていると、何やら横から女子達の歓声が聞えてきた。
「あ!理子ってば体重少なッ!しっかり食べないとまた倒れちゃうよ?!」
「藤川さんって日本人形みたいで可愛い~!」
「身長は…158か…。うん、これは平均だね」
どうやら一人の女子を囲んで盛り上がっているらしい。
隣に並んだ古賀も、首を傾げてその集団を見ている。
そんな2人に気付いたのは、その集団の中でも一番目立っていた亜海だった。
「2人とも、理子が可愛いからって見惚れないように」
ニヤニヤと笑いながら揶揄の言葉を放つ。そのせいで、女子4人集団がいっせいに振り向いた。
「うわっ、カッコイイ!亜海のクラスの子?」
「あの子ジャ〇ーズっぽい!」
なんだかとても楽しそうで、そして仲が良さそうな彼女達につられて微笑んでしまった吉埜だったが、次の瞬間その視線が女子の真ん中に立っていた1人の生徒に吸い寄せられた。
華奢で色白。綺麗なロングストレートの黒髪と清楚な容貌で、まるで日本人形のような子。
「うわー、ホントに可愛いな…」
思わず声に出してしまった。と同時に、その子の顔が真っ赤に染まる。
困ったように伏せた眼といい、その反応といい…。
「……古賀の女子バージョン発見?」
「え?」
吉埜の呟きに、古賀は意味がわからず目を瞬かせた。
身体測定が終わり、教室に戻ってから詳しく話を聞けば、彼女は亜海の幼い頃からの親友で、隣のクラスにいるという。
名前は藤川理子
外見だけではなく、性格も見た目通り大人しく優しいとか。
絶滅危惧種指定の大和撫子そのものらしい。
知れば知るほど、古賀の女子バージョンにしか思えない。
まだ入学初日にも関わらず、まるで旧知の友のように親しくなった吉埜と亜海は、せっかくだから一緒に帰ろうと話が盛り上がり、今現在、吉埜・古賀・亜海・理子の四人で正門までの道のりを歩いている。
「2人とも中学でモテたでしょ?」
「んー…、俺の幼馴染がとにかくモテてたからな~」
「ぇえ!?2人よりもモテるって、それってどんなレベルよ!?」
吉埜は、あえて古賀の中学時代の事を言わずにさらりと受け流したけれど、どうやらそれは成功したらしい。亜海の目が、未知の人物へ向けての好奇心で驚愕に見開かれている。
それにしても、さっきから喋っているのは2人だけ。古賀と理子は楽しそうに話を聞いているが、まったく言葉を発しない。
こんなところまで似た者同士だ。
チラリと横目で古賀を見ると、「ん?」と首を傾げてにこにこと微笑まれる。
そんな時。突然亜海が悲鳴を上げた。
「ちょっ!ちょっとちょっと見てよ吉埜!あの人すごいカッコイイ!」
隣にいた亜海に腕をグイグイ引かれて正面を向いた吉埜は、正門の柱に寄り掛かって携帯を弄っている他校の男子を見つけた。
古賀とほとんど変わらない長身と、男らしく端正な顔立ち。相変わらず茶色にしている髪がよく似合っている。
近くの高校に通う吉埜の幼馴染、三井朋晴だ。
正門を抜ける女子生徒達が、朋晴を見てキャイキャイ騒いでいる。亜海の瞳も好奇心でいっぱいだ。
「彼女待ってんのかな?どんな子なんだろ、やっぱり可愛い子なんだろうな~」
「あいつだよ」
「何が?」
「さっき話した、モテる幼馴染」
「………ぇえ?!嘘ぉ~っ!」
うん、まぁ、驚いたのは亜海だけじゃない。意味合いは違うが、表面に出さないけれど吉埜もじゅうぶん驚いていた。
なんで朋晴がここにいるんだ?
正門前に辿り着いた吉埜が「朋晴。何してんの」と話しかけると、そこでようやく気がついたらしく、弄っていた携帯からこっちに視線を移した朋晴が目を瞬かせた。
「あれ?…いや、今お前にメール打ってたんだよ。うちの学校早く終わったし、一緒に帰ろうと思って」
「あ、じゃあ待ってたのって彼女さんじゃなくて吉埜の事なんだ。…うーん…、確かに可愛いけど…」
「…亜海…、お前な…」
吉埜はもうツッコミを入れる気力もなかった
後ろを振り返ると、理子は楽しそうにそんな様子を眺めていて、古賀は少々戸惑ったように吉埜を見ていた。
一瞬どうしようかと悩んだが、亜海もいる事だし大丈夫だろうと結論付けると、古賀と亜海、そして最後に理子に向かってニッコリ笑いかけた。
「亜海も藤川も、古賀の事頼むな。俺、せっかく来てくれたし、朋晴と帰るからさ」
「了解!古賀君の事は任せて!」
「はい。また明日」
「………うん」
亜海は元気よく、理子は品良く微笑んだ。ただ、古賀だけが、どことなく暗い。
「古賀?」
吉埜が顔を覗き込むと、「なんでもないよ」といつものようにふんわりと笑ったが、少しだけ苦しそうに見えたのは気のせいか…。
気にはなったものの、朋晴が待ってくれている事もあって、吉埜は3人に手を振って歩き出した。
吉埜が歩き出すと、その隣に並んで遠慮なく肩に腕を置く朋晴。
「…重い…」
ジロリと横目で見つつ非難の声を上げる吉埜だったが、それは親しいからこそのやりとり。
古賀は、相変わらず仲のよい二人の後ろ姿を見送ると、それがまるで癖になっているかのように小さく溜息を吐いた。
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