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第9話
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気が付くと、亜海達と4人で行動を共にする事が自然になっていて、二ヶ月近く経てば、そこに違和感など存在しなくなる。
そうなってから尚更浮き彫りになってきたのが、古賀と藤川の性質だ。
奥ゆかしく、穏やかで優しいところが瓜二つ。
二時間目の休み時間、吉埜は、隣の席で次の授業の準備をする古賀を眺めて頬杖をついた。
「藤川とお前って、空気が似てるよな」
「え?」
「2人でいるところなんて、なんていうかこう、見事に馴染んでるっていうか…しっくりくるっていうか…」
「………そうかな」
何故かあまり嬉しくなさそうに呟いた古賀は、少しの間黙っていたが、何か意を決したように顔を上げたかと思えば、次の瞬間、
「…渡来君って、女子の中で梁川さんの事だけは名前で呼ぶよね?」
そんな事を言ってきた。
言われて初めて気が付いたけれど、確かに吉埜は、亜海の事だけは名前で呼ぶ。
「そういえばそうだな。…んー…なんでだろ、呼びやすいから?」
頬杖を外して首を傾げる吉埜を見て、古賀はそれ以上何も云わずにいつもの曖昧な笑みを浮かべ、前に向き直った。
「あれ?理子1人?吉埜と古賀ちゃんは?」
「2人ともそれぞれ女の子に呼ばれて行ってしまいました」
「今日は吉埜もか…」
放課後、1人でいた理子に問いかけた亜海は、返ってきた言葉に「ヤレヤレ…」と肩を竦めた。
古賀の放課後は、一日一告白と言われている事からもわかるように、必ず誰かからのお呼び出しで始まる。
そして古賀ほどではないが、吉埜もけっこうな頻度で呼び出しされている。
「じゃあ今日は久し振りに二人で帰ろっか!」
「はい」
にっこり笑って頷く理子と並んだ亜海は、足を進めるごとに周りからかけられる声に手を振って応えながら昇降口へと向かった。
ちょうどその時吉埜は、亜海達とすれ違いで教室に戻ってきたところだった。
自分の席で帰り支度をしていると、同じく呼び出しから戻ってきたらしい古賀も数分遅れで入ってくる。
「渡来君」
「あ、古賀も今戻ってきたのか」
教室内は、まだ時間は早いにもかかわらず誰ひとり残っていない。もぬけの殻状態。
いつもが騒がしいクラスなだけに、シンと静まり返った教室に寂しさを感じてしまう。
「亜海達も帰ったみたいだし、俺達も帰ろうぜ」
「うん」
机の上に置いていたバッグを肩にかけて横を見ると、古賀は真面目に色々な物を自分のそれに詰め込んでいた。
なんだかとても重そうで、振り回したら凶器にもなりそうな厚み。
「待たせてごめんね」
そんな重量級のバッグを軽々と片手に持った古賀に驚きながらも、吉埜は表向きは淡々と頷いて歩きだした。
家が同じ地区にある事から、もちろん帰る道もほぼ同じ。
いつものように慣れ親しんだ道を並んで歩きながら、吉埜は揶揄混じりに古賀に問いかけた。
「あれだけ毎日告られといて、付き合いたいと思うような子いないのかよ」
住宅街の中のそれほど幅の広くない道を進みながら、隣を歩く古賀をチラリと見上げた。
顔を真っ赤にするか、動揺して視線を彷徨わせるか。
さぁ、どっちだ。
…と面白半分に様子を窺ったけれど、実際は吉埜の予想を見事に外した反応だった。
「………古賀?」
「え、あ、うん。ゴメン」
珍しい古賀の無表情に驚いて名を呼ぶと、そこでようやくいつものように焦った様子を見せる。
あまり負の感情を見せない古賀だが、今の無表情の中には、苛立ちのような苦しみのような何かが見えた気がして、戸惑った吉埜は眉尻を下げた。
「悪い。軽い気持ちで聞いただけなんだけど、イヤだった?」
「ううん!そうじゃなくて、僕の方こそごめんね。どう答えればいいのかわからなくて黙っちゃって…。…告白してくれた人の中に、そう思える人はいなかったから」
「そっか。…うん、まぁ別に、付き合う事だけが全てじゃないし」
いつもの空気に戻った事で、吉埜は笑いながら古賀の腕をパシパシ叩いた。
そこからは他愛の無い日々の話に戻ったけれど、古賀の表情に残された僅かな翳りに、吉埜が気付く事はなかった。
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