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第11話

※―※―※―※―※ 「最近の古賀ちゃん、前みたいに吉埜にべったりくっついてないね」 授業の合間の休み時間。空いた古賀の席を見ながら呟いた亜海の言葉に、吉埜は「そうだな」と返した。 亜海に言われるまでもなく、最近の古賀が距離を置いている事に吉埜は気付いていた。 徐々に徐々に、緩やかに吉埜との時間を減らしていく古賀の行動は、そのままある行動に直結していた。 それは…。 「俺といるより藤川といる方が楽しいんだろ。古賀も男だし」 吉埜が笑いながら言う通り、古賀は最近、隣のクラスにいる理子の所によく顔を出していた。 一部では、実は2人が付き合いだしたのではないかという噂も出ている。 「吉埜にだけは言っておくけど、理子って古賀ちゃんの事好きなんだよ。だから、このまま2人がうまくいけばいいな~って思ってるんだ」 「そうなんだ。…まぁ、古賀も俺とばかりいないで、もっと他の奴とも付き合った方がいいだろうし、いいんじゃない?」 男子達から高嶺の花と言われている理子が、古賀の事を好き。 その事実に、吉埜は何故かチクリとした胸の痛みを感じた。 一緒にいる姿を見ても、しっくりくる2人。これ以上ないほど似合っている。 そう思うのに、「応援してあげようね」という亜海の言葉に、吉埜はハッキリ頷く事が出来なかった。 昼休み。ご飯を食べ終わった吉埜は、ポカポカとした陽射しの心地良さに、襲いくる眠気と戦うつもりもなく机に突っ伏していた。 浮き沈みする意識の中で本格的に深い場所へ落ちて行きそうになった時、制服のポケットに入れてあった携帯のいきなりの震動に、ビクっと肩が揺れた。 それにより完全に目が覚めてしまった自分に眉を寄せながら携帯を取り出すと、ピカピカと光が点滅している。どうやらメールを受信したようだ。 眠りを妨げたのは誰だ。そんな恨み事と共に開くと、なんの事はない、送信者は朋晴だった。 【今日早く学校終わるから一緒に帰ろうぜ。そっちまで行くから】 朋晴は、自分の方が早く終わるとわかれば必ずメールをくれる。 最初は、高校が離れてしまえばいくら幼馴染でも距離が空いてしまうだろう…と、寂しく思っていたが、朋晴のマメな性格に助けられて距離感はまったく変わらない。 睡眠を妨害された事への恨み事も忘れて、ご機嫌な様子で返信文をポチポチと打ち始めた吉埜だったが、不意にその指を止めた。 【りょーかい。古賀もいるけどいいよな?】 いつものようにそこまで打ったけれど、数秒後、後半部分を全て消した。 【りょうーかい。待ってるよハニー】 送信。 朋晴と一緒に帰る時ぐらい、古賀と俺は別々に帰った方がいい。 なんだか変な遠慮をしている気はするけれど、藤川とうまくいっている古賀の事を思えば、これは間違ってない。 きっと今日は、俺を気にすることなく二人で帰れるだろう。 …そう思うのに、モヤモヤと気持ちの悪い感情が胸の内を満たしていく。それがことのほか不快で、刺のような小さな苛立ちまで湧き起こる。 なんでこんな訳のわからない感情が湧き起こるのか…。 吉埜は深い溜息を吐いて机に突っ伏そうとしたが、次の授業の開始チャイムと共に教科担当の教師が入ってきてしまえばそれも叶わず…。もう一度、魂が抜ける程の深い深い溜息を吐きだした。 古賀とまともに話す事なく迎えた放課後。 結局、朋晴が来る事も、一緒に帰らない事も、まだ本人には告げていない。 いつものように、亜海達と4人で昇降口を出て正門へ向かった先、 「あれ?あそこにいるの、三井君じゃない?」 最初に気がついたのは亜海。 亜海の言葉に、皆の視線がそこへ向かった。 正門わきの壁に寄り掛かって携帯を弄っている朋晴は、やっぱりどこから見てもモテ男全開のフェロモンが垂れ流れている。 通りすがる女子がみんな朋晴をチラチラと気にしているのも、今では見慣れた光景だ。 「悪い、言うの忘れてた。俺、朋晴と帰るから、今日はここで離脱しまっす」 「しょうがないな~。他の子だったら許さないけど、三井君は吉埜のダーリンだから許してあげよう」 ハニーじゃなくてダーリン呼ばわりなのが引っかかったけれど、怒られるよりマシだ。 「藤川も古賀も、悪いな。じゃ、また明日」 「はい。また明日」 「………うん」 沈んだ古賀の声が気になったものの、吉埜は、すでにこっちの事に気が付いていた朋晴に向かって走り出した。 「じゃあ今日は3人で楽しく帰ろうか!」 亜海は、朋晴を見た事で目の保養だと、ご機嫌な様子で歩き出す。 2人もその後を追う形で歩き出したけれど、古賀は暗い顔で吉埜の消えた方向を見つめたまま。 そして理子は、そんな古賀を横からひっそりと見つめていた。

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