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第13話
※―※―※―※―※
日曜日は、毎度の如く三井家で過ごす吉埜。
さすがに中3の時は受験勉強に忙しく、それぞれ別の時間を過ごしていたけれど、高校に入ってからはまた、土日の内どちらかは三井家に行くようになった。
彼女がいる時は互いにそれなりの遠慮をするが、いなければそれもない。
という事で、今日も遠慮なく朋晴の部屋でゲームのコントローラーを握りしめている吉埜。
だが、その様子はいつもとは全く違っていた。
一見ゲームをしているように見えるが、キャラは既に倒れていてYouLoseの文字が画面に大きく出ている。
そして、倒れたままのキャラを見つめて深い溜息ばかりを吐きだす様子に、とうとう朋晴が口を開いた。
「吉埜。何かあった?おかしいぞお前」
「………………え?」
数秒置いてから振り向いた吉埜の遅い反応に、朋晴まで深い溜息を吐きだす。
これは重症だ。
そんな言葉が聞えるような溜息に、さすがの吉埜も決まり悪そうに苦笑した。
「溜め込んだって良い事ないんだからさっさと話せ。どうせ自分の中でグルグルしてんだろ?」
「………朋晴……」
頼もしい幼馴染は、こんな時もやっぱり頼もしい。
吉埜は、コントローラーを床に置くと、朋晴に向き直った。
「あのさ…、なんか俺、変なんだよ」
そこから、ここ最近の古賀に対する自分の気持ちを、とつとつと語り始めた。
いつの頃からか感じ始めた独占欲のような気持ち。そこから生まれる苦しさ。
親友とも呼べるべき古賀を、心から優しく見守る事が出来ない自分の器の小ささ。
自分と距離を置き始めた古賀は藤川とも上手くいっているみたいで、きっともう離れた方がいいんだろう。でも、離れたくはない。
「………って、俺、絶対に変だろ?…親しくなり過ぎて距離感がおかしくなってんだよ」
「………」
最後は、まるで茶化すように笑って話を終えた。
朋晴も「お前は女子かよ」とツッコミを入れてくるだろう。
そう思っていたのに…。
「……お前、古賀に惚れてんのか」
真顔で言われたのは、そんな言葉だった。
「………………は?」
固まった吉埜は、一瞬だけ心臓が縮む様な思いを味わったが、すぐにそれを振り払った。
「真顔で冗談言ってんなよ、朋晴くん」
「気付いてないふりしてるけど、本当は自分だってわかってんだろ?」
「………」
今度こそ、吉埜は口を閉じた。
“古賀に惚れてる”
………そう。本当はもうわかっていた。古賀をそういう意味で好きなのだと…。
けれど、認められなかった。
………認めるわけには、いかなかった。
だって、古賀には藤川がいる。
それ以上に、男同士の恋愛なんて気持ち悪がられるに決まってる。
せっかく中学時代のイジメから脱して、楽しい高校生活を送れるようになった古賀を、またどん底に突き落とすだろうこんな気持ちを、持つべきではない。
吉埜は、ギュッと目を閉じて項垂れた。
もう、どうすればいいのかわからない。
そんな吉埜の頭に、温かな重みが乗せられた。朋晴の手の平だ。
ポンポンと宥めるように動く手に勇気づけられて顔を上げると、正面に片膝を着いて座り込んだ朋晴と目が合った。
その力強い双眸が、光を宿す。
「………?」
「俺は吉埜が好きだ。もう何年も前から、お前に恋愛感情を持ってる」
冗談とするには真摯過ぎる眼差しに、吉埜は息を飲んで固まった。
「生まれた時から一緒にいる俺の方が、絶対にお前を幸せにできる。…言うつもりはなかったけど、吉埜が男相手でも恋愛対象に見られるなら、古賀じゃなくて俺を見ろよ」
「………朋晴…」
嘘だろ?と呟いた吉埜の目の前で、朋晴はゆっくりと首を横に振った。
嘘でもなく、冗談でもない。本当の事だ、…と。
「だって、中学の時、お前彼女いたよな」
「あぁ。俺に好きな相手がいてもいいって言うから付き合ってただけだ」
「…………」
そういえば、付き合った人数は多かったけれど、付き合う期間はかなり短かった気がする。
熱しやすく冷めやす過ぎ。
そんな風に揶揄った事があった。
でも、本当はそうじゃなかった。
いきなり知らされた事実に、朋晴の想いに、吉埜は混乱から抜け出せない。
驚き過ぎて、何かが麻痺してしまったような感覚が全身を覆う。
だって、兄弟とも呼べるくらいに身近に思っていた幼馴染が、俺のことを恋愛感情で好き?
女子にモテる男=朋晴、という図式が当然のように出来るくらいモテている朋晴が、男の俺を好きだなんて…。
そんな混乱の中でふと思ったのは、(朋晴の言う通り、朋晴と付き合ったらきっと俺は幸せなれるんだろうな…)という、すべてが綺麗に収まるだろう考えだった。
古賀には理子がいるし、そもそも普通に考えれば、同性に恋愛感情なんて持つなんて事は稀で、古賀が自分を好きになるなんてありえない。
朋晴とはお互いにほとんどの事がわかりあえているし、付き合っていけば恋愛感情で好きになれる時がくるかもしれない。
今だって大切な存在で、人生のかなりの時間を共有している、とても大事で大きな存在。
………でも…今俺の感情は古賀に向いていて…、朋晴をそういう意味で好きではない。
…どうしたらいいんだ…。
とにかくいきなりの事ばかりでグルグルと思い悩む吉埜に、朋晴は一言、
「焦らなくていいから、俺との事考えてみて」
そう言って、いつもの笑顔を見せた。
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