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第14話
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古賀への想いを自覚してしまった吉埜は、次の日の月曜日から完全に彼を避け始めるようになった。それまでの避け方とは違い、もう視界にすら入れようとしない。挨拶さえ返せない。
理子と一緒にいる姿を見たくないし、なんでもない顔で話す事も辛い。
それが必然的に、古賀の存在を完全に切り離す行動へと繋がった。
「渡来君」
「悪い。河野に呼ばれてるから行ってくる」
「あ、うん、…わかった」
昼休みの中頃に隣のクラスから戻ってきた古賀の呼びかけはそうやってかわし、授業の間にある休み時間も席を立って亜海の元へ行く。
ここまでされれば、さすがの古賀も自分が完全に避けられている事に気がついた。
今までは、距離は置いたとしても挨拶くらいはした。少しくらいなら言葉も交わした。
それでも最初の内は、自らも吉埜を避けていた事もあって、仕方がない、これでいいんだ、と思っていた。
だが、それが2日続き、3日続き、更には4日目になった時、古賀の中に生まれていた小さな刺が、心の奥底に沈めていた何かにヒビを入れた。
自分とはまともに挨拶すらしてくれないのに、他のクラスメイトとは肩まで組んでふざけあっている。
亜海とは楽しげに内緒話をし、朋晴とは下校を共にする。それなのに今やもう自分の事を見る事すらしてくれない。存在自体を拒否されてる。
…いったいいつからこんな事になったんだろう…。どこで何を間違えてしまったんだろうか…。
前はあんなにいつも一緒にいたのに、今はもう遠過ぎて、その存在が感じられない。
最初は、自分の感情が吉埜の為にならないと思って避けていた古賀。
けれど、それが吉埜からも避けられるとなると、心の苦しさは加速度を増した。
耐えられると思っていたのに、今はもう、表面張力ギリギリの部分まできている。
あと一滴。
あと一滴で、何かが溢れだしてしまう。
離れた方がいいと思っていたのは自分なのに、吉埜の視界にすら入れてもらえない事が、こんなにも辛いなんて…。
そして、金曜日の放課後。
焦燥感と葛藤に苦しむ古賀の心に、最後の一雫が滴り落ちた。
「あの、渡来君」
吉埜は、背後からかけられた声に一瞬ビクッと肩を震わせた。
振り向いて古賀と目を合わせるのが辛い。普通に会話をする自信がない。
だから、この数日と同じように、誰かに呼ばれている振りをしようとした。
けれど、それよりも早く、腕を掴まれてしまった。
もちろんそれは、後ろにいる古賀の手だ。
何が何だかわからないまま、驚きと動揺で咄嗟に動いた己の行動に、吉埜自身が固まった。
「………」
「………」
古賀の腕を思いっきり振り払い、更にはその勢いが止まらなかった手が、古賀の身体を軽く押しのける事になってしまったのだ。
双方の間の空気が瞬時に凍てつく。
「……悪い…、そんな…つもりは…」
詰まりそうになる呼吸を必死に整える吉埜だったが、傷ついてショックを受けたと物語る古賀の眼差しが痛くて、怖くて…、
逃げるように走りだした。
突然走りだした吉埜に驚いたのは、教室内に残っていた数名のクラスメイトだけではない。
触るなとばかりに腕を振り払われた揚句、逃げ出されてしまった古賀は、驚きと同時に自分の心の中の壁、…それは理性とか思いやりとか呼ばれるもので…、その壁がガラガラと決壊したのを感じ取っていた。
教室を出て行ってしまった吉埜。その後を追うように走りだす古賀。
残されたクラスメイト達は、何が起きているのかわからないといった唖然とした表情で、消えた2人の後ろ姿を見送っていた。
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