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第16話
古賀も俺の事を好きだなんて。どういう事なのか。
嬉しくないと言えば嘘だ。
でも、中学時代と違ってせっかく幸せになれそうな古賀の事を考えれば、自分じゃなくて理子と付き合う方がいい。
亜海から聞いた話では、理子は古賀の事が好きらしい。
彼女と付き合った方が絶対にいいんだ。ようやく苛めの対象から抜け出せたのに、またそんな要因を作るなんてダメだ!
それに古賀の想いは、互いの距離が近過ぎた事からくる勘違いに決まってる。絶対に。
そう思ってしまったら、古賀の前にいる事が出来なくなって咄嗟に足が動いてしまった。
出来る限りの速さで昇降口へ向かい、靴に履き替えて校舎を出る。
通学用鞄が教室に置きっぱなしだけど、もういい。
物凄い勢いで走り抜ける吉埜に、下校途中の生徒達がなんだ?という視線を送るが、それすらも気にせずに正門を出た。
…なんで俺も古賀も男なんだろう…。
追いかけてくる古賀の姿が無い事を確認した吉埜は、途中で走るのをやめてゆっくり歩きだした。
この1時間少々の間に起きた嵐のような出来事。
告げるつもりはなかった想い。
告げられた想い。
いまだに、さっきの事が現実にあった出来事だと信じられないでいる。
もう、ぐちゃぐちゃだ…。
ぼんやりと歩いていた吉埜の足は、自分の家を通り抜けて隣の三井家へ入った。
こんな時に部屋に一人でいたくない。
それに、朋晴と付き合うと決めたんだ。
また訳がわからなくなる前に、朋晴に告げないと。
俺達が付き合えば、きっと何もかもが丸くおさまって、みんなが幸せになれる。
朋晴なら、俺は間違いなく好きになれる。
「朋晴、いる?」
三井家の玄関の鍵は開いていたから、誰かがいるはずだと、吉埜はいつものように中に入った。
おじさんもおばさんも働いてるから、いるなら朋晴だ。
勝手知ったる三井家の階段を上がっていくと、ちょうど部屋から朋晴が顔を出した。
「おかえり」
「ただいま」
こんな何気ないやりとりに、ささくれ立っていた心が落ち着いてくのがわかる。
部屋に入ってベッドを背にしたいつもの定位置に座り、お気に入りの黒のビーズクッションを抱え込むと、ホッとして全身から力が抜けた。
「なんだよ、深い溜息吐いて」
朋晴が苦笑しながら隣に座る。
慣れ親しんだ気配に、安心感に、涙が滲みそうになる。
「…俺、古賀に好きって叫んだ」
「………は?…叫んだ?」
いきなりの展開に一瞬押し黙った朋晴だったが、叫んだという一言に何故か唖然としている。
まぁ普通に考えたら、叫んで告白する奴は珍しいと思う。
「そしたら、古賀が、なんか訳わかんない事言ったから、逃げてきた」
「訳わかんない事って、なに」
「………古賀も、俺を、好き、とか…」
「…………」
部屋に変な沈黙が落ちた。
それはそうだろう。この微妙な空気の意味は、いくらなんでもわかる。
でも、話さないと先に進めないのだから仕方がない。
そこからは、言葉途切れになりながらも、ここに来るまでの自分の考えを全て話した。
…と言っても、朋晴と付き合おうと思っている事までは、さすがに話していない。
いくらなんでも、朋晴から好きだと言われたとしても、それを受け入れる返事をするのは相当な勇気がいるし、ふっ切ろうと思っているとはいえ、古賀の事を好きだった俺が付き合ってほしいと言ったら、朋晴は嫌な気持ちにならないだろうか。
浮気も二股もするつもりはないけれど、今この時、朋晴に恋愛感情を持っていない俺が、付き合ってくれ…だなんて事を言ってもいいのだろうか。
ずるいよな…。これは逃げだってわかってる
吉埜は、いざ朋晴を目の前にして、自分の身勝手さに気分が悪くなってきていた。
大切な朋晴だからこそ、恋人になっても付き合っていけると確信してる反面、大切な朋晴だからこそ、簡単に答えを出してはいけないとも思う。それも、今の状態では逃げ先として利用する事になる。
………もうどうすればいいのかわからない…。
何かを考えて黙り込んだ朋晴から視線を逸らし、抱きしめているビーズクッションに顔を埋めた。
「………吉埜」
「…ん?」
「もし、」
朋晴が何かを言いかけたまさにその時。
ピンポーン
三井家の玄関チャイムが静かに鳴り響いた。
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