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Ⅳ-5※
ぐん、と下肢を掻き抱かれ、限界まで開いた両脚の間を濡れた熱棒が力任せに押し開いていく。下腹を捩って息を吸おうとするものの、隙間もないほど密着し、押し潰された肺がそれを許さない。
「ぁっ、あああっ! ま、って……っ!」
激しい交合に慣れた身体でも、この刺激はさすがに強すぎた。これまで抱かれた誰よりも硬く、熱い肉塊に、身体の奥深くまでこじ開けられる。激しい交合に耐えうるはずもない場所を思い切り擦り上げられて、ひりつく痛みと恐怖で視界が歪んだ。
「まっ――、テ、オ――ぉ……」
細腰はがくがくと頼りなく上下する。雄々しく荒い息遣いと、粗末な寝台の軋む音が耳に煩い。
「ん、んっ、ん」
何度も何度も昂ぶりを差し込まれると、ようやく濡れてきたらしいものの先端から待ち望んでいた滑りが溢れてくる。じわりと身体の奥を濡らすそれに、リュシアンは心から安堵した。
これで、テオドールを受け入れられる。快感を与えてやれる。
自分の快楽は二の次だった。自分は大丈夫だ。いくら雑な扱いを受けようとも、愛されている自信が今のリュシアンにはある。
「ふっ……う、うう……っ!」
痛い。
頭上に纏められた手首が悲鳴を上げた。テオドールのいない数日のあいだにリュシアンの食欲はめっきり落ち、元々肉付きのよくない手首はさらに肉が減って骨が浮いている。骨と骨がぶつかると、身体のどこかで鈍い音が聞こえる気がした。
眦から溢れ、耳の先へと伝う涙を気取られないよう、リュシアンは唇を噛んで声を殺した。
犯されるのがつらいわけではない。どれほど乱暴に扱われようが、男を受け入れる場所は快楽を拾うようになっている。現に、窪んだ腹の上には力無いものから溢れた蜜が点々と溢れていた。リュシアンの身体はたしかに男との交わりを悦んでいた。
それでも痛いのは、心だ。
彼を想い、尽くしてきたはずの自分が、いまや彼をもっとも苦しめる存在となっている。その事実がリュシアンの胸を容赦なく抉った。
テオドールが我を失っているのはたしかだ。おそらく、自分でもなにをしているのかわかっていないのだろう。リュシアンの知る彼は、欲情に周りが見えなくなることはあっても、自分自身を見失うことはけっしてなかった。
そんな冷静で慎重な男が、愛を交わす行為に一瞬の安らぎを見出さなければならないほど疲弊している。
それがリュシアンのせいでなくて、なんだというのだろう。
「あ、あっ!」
肉体を守ろうと必死に収縮する場所で、猛々しく膨らんだ雄が歓喜に震えている。
リュシアンが一言声を上げれば、おそらくこの陵辱のような交合は終わる。やめてくれと言えば、きっと彼はやめる。
――でもきっと……テオドールは後悔する。
己を責める。ぼろぼろになったリュシアンを見、己のしでかしたことを目の当たりにして、リュシアンに許しを請う。
許しを請う?
そんな姿、見たくはない。
許してくれと、こんなはずじゃなかったと、肩を落として懇願する姿が、一瞬でもこの男の人生にあっていいはずがない。そんなこと、望んではいない。
汲み取れなかった自分が悪いのだ。彼の苦しみを、悲しみを、迷いを。あれほどの愛情を注がれておきながら、気づけなかった自分が悪い。
伴侶として支えると決めたのだ。すべてを受け止めると。
だから。
「テオ、ドール――いいっ……ああっ、きもちいい……!」
歯を食いしばり、リュシアンはテオドールを包み込む場所を引き絞った。力の入らない場所を、痺れ、感覚のないそこを精一杯食い締める。
「っ……リュシアン……私は」
濃紫の瞳が影の中で揺れる。リュシアンは首を打ち振るう。
――大丈夫。
胸元へ滴り落ちる汗を指先に掬い、何かを言おうとする男の舌へ乗せた。
「いい、から」
「……っ!」
ぶる、と逞しい背が震えた。限界まで昇りきったテオドールはリュシアンの奥を目指して何度か腰を打ちつけたあと、やがて悲哀に似た深い溜め息を吐いた。
直後、リュシアンの体内に滑ったものが広がる。男の熱い分身が、身体の奥に沁み渡る。
――――熱い。
崩れ落ちるように覆い被さってくる身体を細腕で抱き止めながら、リュシアンは意識を失った。
声がする。
悲しい、男の声が。
声は眠るリュシアンの傍らで、囁くように言った。
私は、間違ったのかもしれない、リュシアン。
真実を知ったとき、お前は私を許してくれるだろうか。
怖いんだ。
お前を失うのが、とても怖い。
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