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Ⅸ-5
「言葉がわかる者は聞いてくれ。わからない者は――」
すると、すかさず主の言葉を訳する者が現れる。
ルドラだ。
『ありがとう、ルドラ』
暴動の煽動者は主の謝辞を面映ゆげな表情で受け止め、仲間へと向き直った。
「今日は……いや今日まで、私のいたらなさが悪戯にキミたちの不安を煽ってしまった。まずはそれを詫びたい」
どよめきが起こる。なかには泣き出し、膝を折る者もいる。
ド・アルマンは、そのひとりひとりに順に視線を据えて、
「先ほど言ったとおり、私はリュシアン殿を連れて、明朝この館を出る。しかし、これだけは忘れないでほしい。私の心はいつも皆とともにあり、そして願うことは、ただひとつ。〝すべての民が平等に暮らす世界をつくること〟だ」
おお、と感嘆の声が上がった。
伝えるルドラの声も震えている。
――すべての民。
アーナヴ。イェマ。ルドラ。ここにいるすべての者を、平等に。
リュシアンの胸を一抹の不安がよぎる。
男の野望は、リュシアンが想像するよりもはるかに大きなものなのかもしれない。
〝キミの愛など、あの男との絆など、そんなことはどうでもいい〟
もっと大きな話をしているのだと言っていた。
話を聞けば、リュシアンの気が変わるとも。
まさかという思いと、この男ならやりかねないという不安――むしろ男の立場を考えれば、それすら不可能ではない――がちらついた。
「あと少しだけ、私を信じてついてきてほしい。一切の私利私欲を捨て、必ずやキミたちを幸せにしてみせる」
「ああ……そんな」
どうか、思い過ごしであってくれ。
事態はリュシアンの――いや、もはやテオドールさえ手が届かないところへと動きつつある。
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