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Ⅻ-4

 貴殿にあたえられた道はふたつだ、とテオドールはいった。 「ひとつ。フランソワ・フロリアン殿下は謀反をくわだて、ヴィルマーユとの約定を反故にし、キルレリアを著しく危険な状態へと陥らせた罪として、ただちに処刑。ジャン・グレゴワール・ド・アルマンは爵位を公爵から男爵とし、領地をすべて召し上げたうえで、今後は新たなる王となられるニルフ王子殿下の後見とする」  まて、とド・アルマンが声を上げる。 「なぜフランソワだけが……。それに、次の王太子はまだ定められていないはず。ニルフ殿下はたしかに第一王子ではあるが、次の王と認められるには陛下と諸大臣の承認がなければならないはずだ」 「承認は下りた。すべては陛下の一存によって決定したことだ」 「なんだって?」  これにはリュシアンも驚きを隠せない。  キルレリアの王太子となる者は王位継承権をもつ王子、王女のなかからもっともふさわしいとおもわれる者を、王とその臣下たちによってそのつど選定される。  しかし、当代の王はすこぶる壮健で、その子どもたちである王子、王女に傑出した才能が認められないという理由から、王はいまだ次代の王となる王太子を選ぶことができていないというまことしやかな噂があった。  くわえて、王の長子であるニルフ王子については、民のあいだにまでその君主としての資質のなさが流布している。  そういえば、とリュシアンは以前、耳にしたニルフ王子の醜聞を思い返した。  そうだ、あれはバシュレの――。 「とにかく、私は認めない」  意識の底から浮かび上がろうとしていた記憶が、ド・アルマンの強い口調にさえぎられる。 「なぜ私が四王子のなかでも、もっとも無能だといわれる王子の尻を拭うまねをしなければならない? ニルフ王子では……いまの陛下の二の舞だ。クレール伯、貴様もそれくらいはわかっているだろう。陛下の側でそれを聞いていながら、なぜ止めなかった? それとも、それもすべて含めての私への罰だというのか?」  民のことなど微塵も顧みぬ愚王ならば、それも不思議ではないか――と目の前の秘された王子たちを尻目に、ド・アルマンが嘲笑する。 「とにかく、その案はたとえ私が命を落としても受け入れることはできない。そもそも、人質であるフランソワの命を奪えば、キルレリアはまた新たな人質をヴィルマーユへ差し出さなければならないんだ。この事態をもっとも手っ取り早く、事を荒立てずに収束する方法は、私だけを謀反人としてひそかに処刑し、フランソワを生涯、この塔へ置いておくことだ……ちがうかい?」 「いうまでもない。貴殿のいうとおり、これはたんにひとつの提案にすぎない。もし貴殿が己の命をなによりも惜しいとおもうのなら、こういう手もあるということを示してみただけだ」  見くびられたものだ、と笑い混じりの嘆息がド・アルマンの口から漏れた。 「命が惜しくて、人が救えるものか」 「そうだ。貴殿は〝民〟を救うために立ち上がった。ならば、この提案は願ってもないことだとおもうが。ニルフ殿下はあのとおり、少々あつかいにくい。だが、それだけだ。貴殿の力をもってすれば、賢王とまではいかずとも、彼の方を傀儡にして、己の好きなように政をうごかすことも可能だろう。それは、貴殿の悲願である〝民を救う〟ことにつながるのでは?」 「くどい、クレール伯」  返答には一瞬のためらいもない。 「私の望みはフランソワの下において平等で、平和な国を作り上げること。それ以外は、私の理想とする国家とはみとめない」  迷いのない眼差しに、テオドールはなぜか、ふ、と嬉しそうに微笑んだ。 「いいだろう。では、いまひとつの案だ」  逞しい長身が、優雅な所作で膝を折る。 「私は、この塔よりフランソワ殿下をお連れする――キルレリアの、王太子として」

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