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第8話

お互いの飲み物が空になったところで俺たちはカフェを出ることにした。 吸うのを渋っていたアキトさんも会話が弾むと自然と白煙を吐くようになってて、帰り際には灰皿に4、5本の吸い殻が残されていた。 「アキトさんって意外に不良だったんですねっ」 「意外かなぁ?まぁ人並みに悪いこともしたってだけだよ」 ショッピングセンターの中を歩く俺はさっき聞いた話を思い出していた。 『いつからタバコを吸いはじめたの?』という俺の問いに対しバツの悪そうな顔でアキトさんは『16歳』と答えたのだ。 未成年なのに?というよりも真面目そうなアキトさんが?ということに驚くと『荒れてたんだよ』と笑っていた。 それから殴り合いの喧嘩もしたとかバイクも乗り回してた、とか、想像も出来ない昔のアキトさんの話はとにかく意外でびっくりした。 「それより、このあとは?どうしたい?」 「んー... もっとアキトさんと話したい!」 「いいけど... もう面白い話はないよ?」 「いいのっ!アキトさんと話ができたら!」 アキトさんとの会話は『新鮮』そのものだった。 俺は多分、狭く深くってタイプなんだと思う。友達と呼べる人をたくさん作るより、大切だと思う人に密に接して親友になりたい。 それは学生時代モロにダッチーが対象になっていて、友情も愛情も全てダッチー一人に向けていた。 就職してから職場の人とはもちろん話すけどそれは『仕事の話』で、プライベートの話はしない。というよりも話さない。それはあの会社の人みんなが同じで、同種の人間が集まったように感じた。まぁそれそれで楽だったんだけど。 だから昔話や他人の話をこれほどするのはとても楽しかった。 聞き上手だと思ったアキトさんは話も面白いし、何より過去の話題は今の見た目とギャップがあって、それを恥ずかしそうにする姿がちょっと可愛いと思ってしまう。 もっと話がしたいと言った俺にアキトさんはまだ昼間だというのに宅飲みを提案し、俺はそれに満面の笑みで同意して、モール内のスーパーで缶ビールとつまみになりそうなものを買って再びアキトさんのマンションへと戻った。 ✳✳✳✳✳ 「っくぁーーー!昼間のビール最高っ!」 「飲み過ぎちゃだめだよ」 「まだ一口目だって!!」 「響くんペース上げるの早いから先に言ったの」 キッチンで追加のつまみを作るアキトさんの横に立って缶ビールを飲む俺。 一緒に飲むのが普通なんだろうけど昼間から飲めることにウキウキしすぎた俺はつまみ作りをするアキトさんを待ちきれずに封を開けてしまった。 子供で申し訳ないと思うけど久しぶりの連休で、しかもアキトさんと飲めるってことが嬉しくてはしゃいでるんだ。それは自覚している。 「あ~~いい匂い!バター?」 「うん。ほうれん草とベーコンのバター炒め。俺これ好きなんだよね。」 「めっちゃ美味しそう!!味見したい!」 「もう出来るけど?... はい、熱いから気を付けてね」 フライパンの中のほうれん草とベーコンを菜箸で少しつまみ、バターのいい匂いのするそれを俺の口元に向ける。 「あっつ!でもうまーーーい!!」  「そ?良かった。」 「もう一口!!」 「だからもう出来るってば... ... はい、これ最後」 「うんまぁぁい!!」 もう一口菜箸に食いついて、俺がモグモグしているとアキトさんは『餌付けしてるみたい』って笑って真っ白なお皿に盛り付けていた。 あとは買ってきた生ハムとチーズ、アキトさんが好きらしいトマトを盛りテーブルに並べ、俺は図々しくもアキトさんより先にソファーに座ってアキトさんを待つ。 「早く早く!!乾杯しよっ!」 「はいはい」 まだ封の空いていない缶ビールを片手に俺の横に座ったアキトさん。強引に自分の缶ビールを当て乾杯し、宅飲みスタート。 さっきは時々ダッチーを思い出すことがあったけど今回はそんなこともなくて、俺はつまみを食べながら一缶、二缶... ... とまたもハイペースで空き缶を増やしていた。 「アキトさーんっ」 「何?」 「ほうれん草たべたーいっ」 「おかわり?しょうがないなぁ」 ほうれん草とベーコンの炒め物は俺の好みの味で、好きだと言っていたアキトさんよりも食べてしまいお皿は空っぽ。 俺のおねだりにアキトさんはキッチンに向かう。 「あー、ごめん、ほうれん草がもう無いや。ベーコンのバター炒めならできるけど、どう?」 「いい!それ作ってっ」 缶ビールを持ったままアキトさんの横に張り付く俺。 ベーコンを切って、フライパンで炒めて、バターを入れる。醤油も入れる?と聞くアキトさんに俺は賛成して、そこに醤油が少し加わると食欲の湧くいい匂いがした。 「アキトさんっ、あーん!」 「あーんって... もう、本当に君は... ... 」 味見したい、と口を開ければ呆れ顔でベーコンを入れてくれるアキトさん。 ほうれん草が無くても充分美味しい。 「おいひい」 「そりゃよかった。」 「ねー、もう一口っ」 「また?っていうか結構酔ってるね?」 「ぜーんぜん。ね、アキトさん、あーん!!」 中々次の一口をくれないアキトさんのシャツの裾をグイッと掴み、早く早くと口を開く。 ーーこれは俺の『癖』なのかもしれない。 実は4人姉弟の末っ子長男の俺は、歳の離れた姉に物を強請る時、よくこうしていた。 そしてそれはいつしか恥も抵抗も無くなっていて、ダッチーの食べているものが欲しいとき、俺は決まって口を開いて待っていた。 恋愛感情を抱いてからそうしていたのは下心があってだけど、普段から割とよくしていたことだった。 「... ... ... ... だよ」 「え?今なんて... ... っんん!?」 その時もいつもと同じように『ただ欲しいだけ』という恥も下心も躊躇いも無く開いていた口が急に塞がれ、ヌルッとした感触が口の中を動き回る。 「んっ、んぁ... ッふ... ... 」 それは戸惑い逃げる俺の舌を追いかけるように絡めてきては吸い上げる。 クチュクチュと唾液の混ざる音と自分の口から漏れる変な声。 何が起こってるんだ?そう考えるのが当たり前なのに、酔いが回った頭じゃそれもできなくて。 「無防備過ぎる君が悪いんだよ」 やっと解放された、と思えば俺にの首に両腕を回し口元についた唾液をペロリと舐め上げるアキトさんが艶めいた表情でニヤリと笑っていた。

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