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第9話

「ア、キト... さん... ?」 「そう思わない?会って3回目のよく知らない人の家に来て、酔っぱらって甘えて」 「ちょ、まって、アキ... んンッ」 アキトさんの顔が近付いた、と思えばまた口が塞がれて、その時やっとさっきのが『キス』だったと気付く。 優しく触れたと思えばまた生温いもの... アキトさんの舌が俺の唇を割って侵入し絡み合っては水音を立てた。 「アキトさ... っん、ぁ」 「本当に聞いてた通りの無防備さで驚いたよ」 「ふぁ... っ?」 唇が離れては塞がり、塞がれては離れる。 それを何回か繰り返す頃には俺の頭はポーッとしてきて思考が回らなくなっていた。 キスの経験が無い訳じゃない。 学生時代、周りがどんどん付き合い始めた頃、俺も流されるように彼女を作った。 その時はダッチーを好きな自分を何処かで否定し、そしてそのダッチーに彼女が出来たことに苛立ち焦り、今じゃ名前も顔も思い出せないような大して好きでもなかった女の子と初めてのキスをした。 もちろんすぐに別れたけれど、俺はダッチーに彼女が出来る度に適当に出会った女の子と付き合い、そして別れる。これを繰り返した時期があった。 そんな恋愛とも呼べない俺の黒歴史の時に体験したキスとは全く違うアキトさんのキス。 舌を絡めることが初めてっていうのもあるけど、この人はキスに慣れている。 俺が逃げないように片方の手で頭を固定され、キスの合間にもう片方の手が耳元の髪を弄る。 チュッと軽いキスを落としたと思えば息の出来ないくらいに激しいキスに変わったり... アキトさんはきっと、いや絶対、キスが上手なんだ。 「ねぇ響くん。」 耳元で囁くように名前を呼ばれ、ビクンと身体が震える。 それに気付いたかのか、意地悪そうにアキトさんは俺の耳朶を舐め上げる。 「全部、俺が忘れさせてあげる」 そう言ったアキトさんの声はとびきり甘くて、全身の力が抜ける。 もう一人じゃ立っていられないような、そんな感覚に襲われた俺は思わずアキトさんのシャツをギュッと握ってしまった。 「それ、無意識?」 「え... ?」 「潤んだ目でシャツ掴むとか、誘ってるようにしか見えないんだけど?」 「ちっ!違っ!そうじゃなくて... っ!」 「響くんのせいだから、ね?」 「アキトさん... ?っ、んぁッ」 再び重なった唇。強引に割って入る舌。  『優しいアキトさん』からじゃ想像もつかないようなそのキスに、俺は『なんで?』と頭の中で考える。 でもそれが出来たのも初めの数秒間だけで、次第にアキトさんとのキスに溶かされていくように、抵抗することも忘れて受け入れてしまう。 「... ふ、ぁ... ッ... 」 「キス、好きなの?」 「ん... っ」 「じゃあもっとしよっか」 お酒が入っているからなのか、それともこのキスのせいなのか... 今していることがおかしいのか、そうでないのか。 そんなことを考える余裕なんてもう何処にもない。 アキトさんのシャツにしがみついて、アキトさんの舌に追われて、何度も何度もキスをした。 ピチャピチャと音を立てていることもどちらのか分からない程に混ざり合った唾液が垂れていることも、もうどうだっていい。 俺はアキトさんとのキスにあっという間に溺れていた。 そうしていれば焦げ臭い匂いがして、アキトさんは『焦げちゃった』と笑い、火を止めてから俺のおでこにチュッと軽くキスをした。 「場所変えようか」 艶めいた瞳、さっきと同じ甘い声。 その言葉が何を意味しているのか。 連れていかれた先はリビングの隣の部屋で、そこはベッドのある寝室で。 部屋に入るなり押し倒されてまた深いキスに襲われているこの状況に俺の脳内で危険信号がうるさいほど鳴っている。 「アキ... トさん... ッ!?」 「ん?なぁに?」 「ゃだ... ッ、何処触って... !?」 「苦しそうだなぁって思って?」 「あッ、やめッ、だめッ!!」 俺の下唇を甘噛みしながらアキトさんの手が全身を触り、そしてズボンの上から大きくなった俺の息子に触れていた。 『キスだけで?』と自分自身が驚いてしまう程に腫れ上がるそこをアキトさんの指がツーッとなぞり上げる。 「ッッ... !」 「響くんって敏感なんだね。」 「ち... が... ッ、ぁ... っ」 「こうやって触るだけでビクビクしてるよ?」 「やめてっ、アキトさん... っ!」 「やめていいの?もっと気持ちよくなりたくない?」 そう言ったアキトさんは、なんの躊躇いもなく俺のズボンの中に手を入れたかと思うとそのまま下着ごとズラしてしまい、やめて、だめ!と言ってももう遅くて、俺の息子が丸出しになってしまう。 「やだっ、やだぁ!アキトさんやめてっ」 「かーわい。触るよ... 」 「ひぁ... ッ!?やめ... ッ、ん...っ 」 「響くんの凄い熱いね」 「あっ、ふ... ぁ... っ」 自慰なんて普段から滅多にしないくらい性欲が無い。 ましてや自分以外がそこを握るなんて有り得ないと思っていたのに、今俺を弄っているのはアキトさんで、他人の体温すら刺激になってしまう。 抜かなくても生きていけるじゃん、そう思っていたはずなのに。  「っああ!だめっ... アキトさん... ... ッッ!」 「... ... ッ、」 ピュッと弾け飛ぶのは俺の白濁。 こんなに呆気なくイクなんて、どうかしてる。 ドクドク流れ出る液体は俺が溜めていた証拠で、恥ずかしくて両腕で顔を覆うしかなかった。 「いっぱい出たね... ?」 「... ッ、なんで... こんなこと... 」 「忘れさせてあげるって言ったでしょ?」 「言った... けど... ... ... こんなこと... っ」 「ショック療法ってやつ?んー、ちょっと違うかな。でもこれで響くんは俺のこと思い出すでしょ?」 そう言ったアキトさんは、俺の服についた白濁を見てニッと笑った。  「これじゃ帰れないね。洗濯しよっか。」 それはアキトさんの優しさなんかじゃなくて、悪魔の提案だっていうことに俺が気付くのは数分後のことだった。

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