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第10話

ーーもう何度イッたんだろう。 冷房の効いた部屋なのに全身が熱くて、汗とアキトさんの唾液、それから自分の吐いた白濁まみれでベタベタする身体。 「ぁ... も、無理... ッ、アキトさ... ッ」 「無理じゃないでしょ?ホラ、また勃ってきた」 「んあっ!あっ、んん... っ!」 『洗濯してあげる』と言ったアキトさんの言葉に頷いた俺が着ていたシャツを渡すと、ついでだからとズラされていた下着とズボンも脱がされて。 全裸になった俺がシーツにくるまってどうしようかと戸惑っていればアキトさんは『洗濯が終わるまで』と言いながら再び俺の下半身に触れた。 それからどれだけ時間が経ったのか分からない。 洗濯なんかとっくに終わっているはずのに、アキトさんは止まることなく俺の下半身を弄り、俺は何度も何度も欲を吐き出した。  もう出せるものなんて無い、それくらいに... 。 「アキトさん... っ、も、やめて... っ」 「やめる?気持ち良さそうに喘いでるのに?」 「喘いでなんか... っ、ひぁっ、ん... ッ」 「響くんの声聞いてると苛めたくなるんだよね。なんでだろう?」 「やぁっ、やめてぇ... ... ... っ!」 アキトさんってこんな人だった? 優しいアキトさんは何処? 俺がヒーローだと思ったあのアキトさんは、何処にいったの? 目の前で笑うのは俺の知らないアキトさん。 なんで?どうして?どうしてこうなったの? 誰か、教えてよ... 「ッ、あああああ!!」 先端をピンと弾かれた俺は身体を反らせながらイッた。 こんなこと望んでないのに、それでもアキトさんから与えられる『快感』は堪らなくて。 何度イッてもすぐに襲ってくる気持ちよさに溺れて抜け出せない。 ショック療法、なんかじゃない。 溺れて、溺れて、逃げ出せなくなる。 「アキト... さ... ... 」 滲んだ視界の先にぼんやりと映る顔。 深い海の底に落ちていくように意識が遠のいた。 ✳✳✳✳✳ 「... ... ... ん... 」 目を開けると薄暗い部屋に知らない天井。 寝返りをうって『ああ、そうだ』と思い出す。 ここはアキトさんのマンションでアキトさんの寝室だ。 (ベタベタしてない... ... ) 全身ベタベタだったはずなのにそれを全く感じさせないくらい綺麗になっている身体。 思い出すのは自分の知らない声と快感、恥ずかしくて堪らない。 (アキトさんは... ?何処... ?) 起き上がって家主の姿を探してみても寝室には俺しか居ない。 リビングに居るのか?と思い寝室のドアに近付くとアキトさんの声が聞こえた。 「ーーって言っただろ?大丈夫だって」 誰かと会話している?でもアキトさんの声しか聞こえない。となると電話中なのかな... ? あんなことをされた後、というのもあるけど電話中なら邪魔しちゃいけないと思った俺はドアの前で待つことにした。 「だから何度も言ってるだろ?俺がなんとかするから。」 俺と話すときとは違う少し強いアキトさんの口調。 (... 仕事の話なのかな... ?) 断片的にしか聞こえないアキトさんの声。 内容は分からないけど、もし仕事の話なら聞いちゃいけないだろう。ここに居ると盗み聞きみたいになっちゃうし、やっぱりベッドで待った方がいい、そう思いドアから離れようとした時だった。   「はいはい、分かってるって。もう切るからな?...... 愛してるよ、ミキ」 最後にアキトさんが口にした言葉で仕事の電話じゃないことがハッキリとわかった。 俺も聞いたことのあるあの低くて甘い声が『愛してる』と言ったんだから、その相手が仕事絡みなんかじゃなくて『恋人』なんだと。 (恋人... ... 居たんだ... ... ) チクッと胸が痛み、しばらく忘れていたモヤモヤした感情が俺を襲う。 ガタンと音がしてアキトさんが立ち上がったと気付くと俺は急いでベッドに戻り目を閉じた。 (なんで... 恋人がいるのになんで俺にあんなこと... ... ?) 目を閉じているから当たり前なのに、言葉にするなら俺の目の前は真っ暗だった。 ダッチーのことを忘れさせてあげると言ったアキトさんの言葉の意味も行為ももうよく分からない。 「... 響くん?」 薄暗い部屋にリビングの電気の光が差し込む。 聞こえたのは電話中の口調とは別人かのように違う優しい声。 「まだ寝てる?」 ギシッと音を立て、ベッドに腰掛けたアキトさんは狸寝入りをする俺の髪を撫でた。 恋人がいるのにどうしてそんなことをするのか。どうして俺に優しくするのか... ... チュ、と額でリップ音を鳴らし柔らかい感触がしたと思うと、アキトさんは静かに部屋を出ていった。 (なんで... ?なんでキスなんかするの... ... ?) モヤモヤした気持ちは膨らむばかりで、アキトさんのことで頭がいっぱいになる。 分からない。理解できない。 ギュッと目を閉じたまま、その答えを必死に考えるのに何一つ答えが出なかった。

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