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第14話
チリンチリン... ... ...
「こんばんは... ... 」
「こんばんは... おや、お久しぶりですね」
ドキドキしながら扉を開けると、グラスを並べるマスターと目が合った。
「仕事が忙しくて、中々飲みになんか行けなくて... 」
「そうでしたか。お疲れさま、ですね。」
「はは、ありがとうございます。」
カウンター席に座りいつも飲むお酒を注文し、ポケットからスマホを出して視界に入る場所に置く。
いつもはこんなことしないけど、もし仕事絡みの連絡が来たら... っていうのと、時間を確認したかったから。
さっきまで散々飲んでたのに酔いはそれほど回ってなくて、他にお客さんが居ないからマスターと世間話に花を咲かせ、俺はその間もチラチラとスマホ画面で時間を確認する。
「... 連絡を待ってるんですか?」
「え!?」
「失礼、さっきから何度も見ているようでしたので... 」
ふふ、と笑うマスターは俺のスマホを指指した。
「ち、違うんです!!その... 時間を見てて... 」
「時間?」
「... ... そろそろ、来たりしないかなぁって... 」
「あぁ... なるほど。そういう事でしたか。」
誰が、なんて言わなくてもマスターには俺が誰を待っているか、なんてお見通しのようだった。確かにここでしかアキトさんには会ってないし、それに店を出るときはいつもアキトさんと一緒だ。三回ここに来て、三回とも同じ。
だからマスターだって分かったんだろう、そう思った。
「お二人はご友人でしたか?」
「違いますよ。多分... 」
「ではお仕事関係?」
「それも、違う... と思います」
「... 恋人、ですかな?」
「こ!?... ッゲホゲホ、違いますよ!!!」
口にしたアルコールを吹き出しそうになった俺を見て笑うマスター。
... 最後のは多分マスターの冗談だ。
でも、そう聞かれると... ... 俺とアキトさんの関係って何なんだろう?
友達って程じゃないだろうし、仕事絡みじゃない。というより、アキトさんの仕事は知らない。もちろん恋人でもない訳で。
「... ... 相談相手、みたいな感じですかねぇ」
それも数回顔を合わせた程度の、ほとんど何も知らないような、そんな薄い関係。
口に出すと思ったよりもそれが俺の心にグサリと来た。
「そうでしたか... 。来るといいですね。」
「そうですね。」
ただここで会って、ダッチーのことを相談して、たまたま部屋にお邪魔して、... ... 抜いてもらっただけ。
それだけの関係だってことは分かっていたのに、ダッチーみたいに『大親友』とポジション付けて呼ぶことの出来ないアキトさんとの関係。
もう頼らない、会うのだってやめたほうがいいのかもしれない。
そう、頭の中では分かっているのに。
(なのに、どうしてこんなに会いたいんだろう... ?)
…結局何杯もおかわりして待っていたけど、その日アキトさんが店のベルを鳴らすことは無く、俺は朝方フラフラの足でアパートに帰った。
もちろん数時間後に仕事に行かなきゃいけないことも、アラームを設定しなきゃいけないことも、ぶっちゃけ寝たら起きられる訳ないことも分かっていたのに、『アキトさんと会えなかった』ことが引っ掛かって、モヤモヤした気持ちを消すためにベッドに横になった俺。
ーーそしていつかの反省も虚しく、二日酔いでガンガン痛む頭を押さえながら目覚めると、『不在着信68件』の文字。
慌てて出社すればもう昼休みで、バックに吹雪が見えてしまうような笑顔で俺を呼ぶ悪魔... じゃなくて主任にこっぴどく説教を受けたのだ。
「響くんにはお仕置きが必要かな?」
なんて恐ろしい台詞を吐いた悪魔はやけに機嫌が良くて、それがまた怖かったんだけど... 。
有り難いことに仕事自体は落ち着いていて、この二日酔いの頭でもなんとか定時までやっていけた。
このまま帰って寝てしまおう、寝なきゃ治らない!と思って定時ぴったりで上がった俺がエレベーターを待っていると、ポケットのスマホが震えた。
「... ... 間違い電話?」
登録していない、しかも見覚えのない番号。
090から始まるその番号は携帯番号だろう。
間違い電話なんて、誰が出るか!と無視して到着したエレベーターに乗り込んで、俺は痛む頭を押さえながらアパートへと帰った。
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