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第15話

「げ... ... またかよ... ... 」 俺が盛大に寝坊したあの日を境に、間違い電話は数日置きに着信を残していた。 一度は出て文句を言ってやろう、そう思ったけれど俺にはそんな勇気が無くて結局無視を続けている。 画面に表示される数字を暗記してしまうくらいなのに、その着信を取ることが出来ないビビりなのだ。 「どうした?」 「んー、間違い電話。ここ最近めっちゃ掛かってくるんだよね」 「うわ、それは怖いなー。俺が出てやろうか?」 今日は休みで、たまたま休みの被ったダッチーと午前から俺のアパートで会っていた。 相変わらずともちゃんは実家に帰ったまま、仲直りもしていないダッチーは、久しぶりに飲んだあの日から数日おきに連絡をくれるようになった。 俺も予定が無い日はその誘いを受けていて、飲みに行ったりゲームセンターに行ったり、カラオケでオールしてみたり... それは学生時代のようで、なんだか懐かしい気持ちになる程だった。 「いやいいよ... 変な電話だったら嫌だし... 」 「変な電話なら尚更だろ!ほら、貸してみ」 「あ!ちょ、ダッチー!!」 俺の手からスマホを奪ったダッチーは、躊躇うことなく通話ボタンをタップした。 「あーもしもし?誰か知らないけどコイツ俺のだから。もう掛けてこないで貰える?」 ダッチーの第一声はこれだった。 そしてそのまま通話終了ボタンをタップし、俺にスマホを返す。 「ちょ!!!ダッチー!?さっきの何!?」 「何って...ああでも言えばもう掛けてこないだろ? 」 「いやっ!意味分かんない!!俺のって何!?」 「響は俺の親友だろ?それにさぁ、前から心配だったんだよ」 そう言ったダッチーは折り畳み式の小さなテーブルに肘を付いて俺を見た。 「響ってさぁ、昔っから無防備じゃん?」 「... は?」 「中学の一個上の谷川先輩、高校の二個上の三林先輩、それに同じクラスだった橋本に上田... 」 「ちょ、ダッチー?それが何... 」 「まだ居たけど思い出した所でその辺、みんなお前が好きだったんだよ。」 ダッチーのその言葉に俺の頭はフリーズした。 谷川先輩と三林先輩は部活でお世話になって、橋本と上田は席が横になってから仲良くなった。と思えば少ししてから話すことが無くなって、俺はダッチーが彼女を作るようになってから彼女を作り会話することも無くなったんだっけ... ? 「お前さ、割りと誰にでも優しく接するだろ?一定の距離はあるけど当たりはキツくないし。それにその見た目だから男でもコロッと好きになる奴いんだよ。」  「ちょ... 待って、俺を好き?いやいやあり得ないだろ」 「有り得た。つか有り得すぎてストーカーみたいになってたから俺が潰してた。ま、響は気付いて無かったみたいだけど?」 「つ... ぶす?ダッチーが?」 「そ。まぁつまりだ、俺が言いたいのはその間違い電話がお前の事狙ってるんじゃないかってことだよ。」 そこまで話したダッチーは『タバコいい?』と俺に聞いた。 換気扇の下なら、と返事をし、だいぶ前にダッチーが置いていった灰皿を取り出してダッチーの前に置く。 「気を付けろよ?男でも女でも襲われる事あをんだから。」 「大丈夫だって... そんなのあり得ないから」 「とりあえずまた掛かってきても出るなよ?」 「あんなこと言った後で出る勇気なんか無いわ!」 ダッチーの言った言葉は到底理解なんかできなかった。 でも確かに何度無視しても掛かってくるあの番号からの着信は怖いと思う時があった。 『コイツ俺のだから』 ダッチーが好きだった時に言われたら、どれだけ嬉しかったんだろう。 それだけダッチーが俺を親友として大事に思ってくれていること、お節介にも程があると思うような発言だけど、これで着信が無くなるならそれはそれでいいか... 。 ダッチーはタバコを吸いながら、俺には黙っていたというストーカー化した奴等の話をしてくれた。 それはほとんどが待ち伏せとか隠し撮りとか、今思えば『気持ち悪い』けど、俺がダッチーに片想いしていたことを思い出せばなんとなく分かってしまうような事ばかりで、ダッチーのように強く否定することが出来なかった。 それから夕方までダラダラと過ごした俺たち。そろそろ帰ると言ったダッチーを送りついでに外に出ると、ふと視界に入ったあのバー。 (…アキトさん…) 無意識にも近い感覚で、俺はバーの方へと近寄った。

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