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第27話

「はい、コーヒーミルクとサンドイッチ。」 「... ... ... アリガトウゴザイマス。」 「そんな嫌そうな顔すんなって。俺の奢りだぞ?喜べ喜べ!」 到着した先は、俺のお気に入りのカフェだった。会社の近くにある店舗を含め、あちこちに店があることを知っていたけど、主任が選んだのは少し離れた場所にある、会社から徒歩では行けないであろう店だった。 テラス席は喫煙OK、ということを知っていたのか、もちろん主任はテラス席を選びそこに俺の好物を並べる。 このカフェも、コーヒーミルクもサンドイッチも、全てがアキトさんを思い出すから避けたかった場所なのに... ... ... ... 「ん?どうした?」 目の前でホットドックにかぶり付く悪魔のせいで、わざわざ思い出す羽目になってしまった。 「別に... 。いただきます。」 とはいえ空腹で好物を目の前にしたら、腹の虫は早く寄越せと言わんばかりに鳴り出しそうで、俺はサンドイッチの袋を破いた。 一口食べれば、やっぱりコンビニのサンドイッチなんかとは比べ物にならない程美味しくて、主任と二人、無言で食べ進める。 大口の主任はあっという間に食べ終わり、俺に許可なくタバコに火をつけていた。 「... で、響は恋人と順調な訳?」 「ぶっ... ... げほっ、な、何っ... 」 「だから恋人と... 」 「恋人って!?いませんから!!」 思わずサンドイッチを吹き出しそうになるほど、主任の口から出た問いはおかしなものだった。 何を唐突に、と聞けば、最近の俺は浮き沈みが激しくて、かと思えばたまに色気が垂れ流しになっているとかなんとか... ... ... 仕事のことだって、その恋人と何かあったからじゃないかと主任は主任なりに心配していたらしい。 「今日だってさー、恋人とイチャイチャし過ぎて身体しんどーい!って体調不良かと思ったんだよなー」  「ぶっっっ!」 「おいっ、汚いぞ!?」 「げほっ、げほ... ... っ」 更に主任の勘は恐ろしく的中し、さっきは耐えれたけれど今回はサンドイッチを吹き出してしまった。 それを片付けながら『違いますって。』と言ってはみるものの、主任には通用しない。 恐ろしく、それはまさに悪魔のように恐ろしく、勘の鋭い主任はその後俺に爆弾を投下した。 「バカだなー、そういう時は休めばいいのに。身体しんどいだけじゃん。」 「そういう時はって... !仕事をそんな理由で休んじゃだめでしょ!」 「はぁ?お前分かってないなぁ。ヤッた後の色気ムンムンの状態の恋人が自分の居ない所で、しかも男ばっかの職場で腰押さえながら仕事するとかどうよ!?嫌だわー、俺は絶対嫌。」 「... ... 俺には理解できません。」 「そりゃそうだろな、お前は痛がる方なんだから。」 「痛がる方って... ... ... ... ... ... え?」 「え?そうだろ?響は挿れられる方だろ?」 フゥ、と吐いた煙はやっぱり重たくて煙たくて、アキトさんのタバコとは全く違う。 落ち着いた顔で、『そうでしょ?』と言う主任に俺は返す言葉を必死に考えた。 「え、と... しゅ、主任、何言ってるんですか?俺意味が... 」 「だーかーらー、響はケツにチン... 」 「うわぁぁぁあぁあぁぁぁ!!!!!」 「なんだよ、説明してんのに」 「あんたバカですか!?こんなところで、昼間っから下ネタ全開で!!!恥を知ってください!!!!」 「下ネタって... はは、やっぱ意味分かってんじゃん」 「~~~~~~っ!!!!!」 ニヤニヤ笑う主任を見て、なんで!?と悔しさで溢れた表情を浮かべてしまう俺。 でももうだめだ、きっとこの人は何かしら気付いている。 その証拠ににやついた顔を崩すことなく煙を吐いた主任は、トントンと灰皿に灰を落とした。 「それで?順調なの?」 「... ... 恋人なんか、いません... 」 「え、そうなの?じゃあセフレ?」 「そんなのもいませんって!」 「えー、でもヤッたんだろ?付き合ってないならセフレじゃん。それともそういうお店に行った、とか?」 「行きません!それになんでヤッたこと前提なんですか!!!」 「だってお前、今日やべーぞ?色気ムンムン。さっきまでヤッてましたー、みたいな顔してたじゃん。」 「う、うそだ... ... 」 「ほんと。腰痛そうだし、それ以外考えられねーって。それにほら、最近おかしいからさ、なんかあったんだろうなって。ここなら俺しか居ないし、ちゃんと話できるじゃん?相談なら乗るぞ?」 そう言った主任は早く話せと言わんばかりに俺を見る。 そんなこと言われたって、俺が悩んでいた中に主任本人もいたし、アキトさんのことなんか言えるわけないし。ヤッたヤらないは置いといて、プライベートな話をするなんて、嫌だった。 「別に... ... ほんとに何も... ... ... 」 「何も無くてあんな暗い顔することないだろ。それともなんだ、俺には言えないのか?」 「プ、プライベートのことなんで!!」 「プライベートを仕事に持ち込む時点でアウトだ。ほら、話せ。話さないならここでキスするぞ。」 「キッ... !?な、なんで!!」 「5秒以内。ごーぉ、よーん、さーん... 」 「ちょ、ズルい!」 「にーい、いーち... ... 」 「分かりました!話します!!!!」 キスされる、なんて相手が主任じゃなきゃ信じなかっただろう。 カウントダウンと共に近付く顔に耐えられず、俺は大声で叫んだ。 「んじゃ、響くんのお話、聞こうかね。」 「... ... ... ... っ、ほんと性格悪い... 」 「なんか言ったか?」 「なんでもないです!!!」 こうして俺は、苦手な主任に今抱えている悩みを話すことになった。 でも全部なんて言えるわけないから、ダッチーのこととアキトさんのことはあえて触れずに、 『千裕くんへの嫉妬』という部分だけを主任に伝えた。

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