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第28話

一通り話すと、主任は『そんなこと?』と言ったあと笑いだした。 「まっさか響が千裕に... っはは!」 「... 笑うとか、失礼極まりない人ですね」 「いやーだって!そんなことで悩んでたのかーってさ。お前、可愛いなぁ!」 「可愛くないし!!もうやだ。せっかく話したのに... 」 もちろん主任に特別扱いされている、ということには触れず、千裕くんの仕事の出来る所に嫉妬した、と言ったんだけど、主任は真面目に聞いているのか聞いていないのか... ゲラゲラ笑っていた。 人が相談というか、悩みを話したというのに、上司に笑われるだなんて有り得る話なのだろうか。 きっとアキトさんなら笑ったりしない。 俺を慰めるように微笑むくらいはするだろうけど、ゲラゲラ笑うことは絶対にない。 (... って、アキトさんと比べちゃダメじゃん... ) もう話すことなんか無いはずなのに。 例えでも出てきてしまうアキトさんは、俺の中で一番優しくて一番頼りになる存在なんだと気付いてしまう。 「あ、今暗い顔した」 「っ!」 「... ... まぁさ、確かに千裕は飲み込み早いよ?でもそれは今まで色んな所で働いてきてて、特別要領がいいから。大まかに出来ても響みたいに細かいところまで集中した仕事は出来ないよ。」 「... なんでそんなこと... 」 「それに!千裕は響と仲良くなりたがってるよ。ただあいつ、人に接するのが苦手っつーか、仲良くなることを苦手としてるっつーか... とにかく面倒なんだよ。」 「仲良くなることを苦手、って?」 「仕事で必要以外のことを話して迷惑じゃないか、とかさ。ほら、お前最近特に変だったじゃん?だから余計に話しかけにくかったんだって。」 「... ... ... ... そう、なのかな... 」 「そうなの。だからお前から話しかけてやってよ。俺はお前らが絶対仲良くなると思ってる。仕事だって千裕にも響にも頼ってるし、どっちが優秀とか比べてないから。千裕は千裕、響は響。お前が嫉妬なんかする必要ないよ。」 そう言った主任は俺の頭をポン、と撫でた。 その仕草がまたアキトさんを思い出させて、俺は俯いてしまう。 「俺はてっきり恋人とのことだと思ったのになー。まさか千裕のことだとはね。」 「... だから恋人はいませんって。」 「じゃあヤッた人のこと、か?どっちにしても俺の可愛い部下を悩ますとは罪な奴だな、ほんと。」 「... ... ... 。」 俺が今考えてることは何なんだろう。 昨日は誰かの特別になりたくて、ダッチーや千裕くん、主任に嫉妬していた。 でも今日は?... ... そんなことどうでもよくなるほどに、考えていたのはアキトさんのことだ。 考えちゃいけないと思えば思うほど、頭の中で昨日の行為が甦る。 でも。 アキトさんには大切な人がいる。 愛している、なんて台詞を二度も聞いたんだ。それなのに俺は、アキトさんの、『特別になりたい』と思ってしまった。 まだお互いのことを知らないのに、数えるほどしか会ってないのに... 。 「... ま、大丈夫だよ。きっと響が望んだようになるさ。」 「え... ?」 「はい!相談タイム終了!さっさと帰って仕事するぞー!」 ほんの少し、千裕くんへのモヤモヤが薄れて、アキトさんへの気持ちがハッキリしてきた所で主任は立ち上がった。 さりげなく俺の分のトレイを持って下げ口に置いてくれて、来たときと同じように助手席に乗り込めばゆっくり発進する車。 車内はやっぱり重くて煙たい、主任のタバコの匂いがした。 ✳✳✳✳✳ 「あ、もしもし、エイトクリエイティブの筒尾と申しますが... 」 会社に戻ると、俺はすぐに名刺に書いてある電話番号に電話した。 さっきはコール音が続いたけれど、今度は3回目で女の人の声が聞こえて、あまり慣れない電話にドキドキしてしまう。 『ああ!筒尾さん!連絡ありがとうございます!』 「い、いえ、こちらこそ企画の件、ありがとうございます。是非お願いしたいと思い連絡したのですが、打合せなどの日程を相談... 」 『あ... っ、と、すいません。実は急に担当が変わりまして、他の者が担当になったんです。今日お休みを頂いてまして... 伝えておきますので、また改めてお電話しても大丈夫ですか?』 「え?そ、そうなんですか?もちろん大丈夫です。よろしくお願いします。」 明日は出勤なので!と言った女の人は申し訳なさそうに何度も謝ってきた。 俺も打合せまでに小説を読んでおきたいと思ったし、連絡待ってます、と言って電話を切った。 主任からは、帰りの車の中でしばらくの間はこの企画に専念していいと言われた。 打合せは主任も参加するって言ってて、企画がまとまり次第他の社員も応援に回すからって。 こんな俺が仕切るような仕事を任されるだなんて、初めてで大丈夫か心配で仕方ない、と言うと、『お前は一人じゃないだろ』って。 それがなんだかすごく嬉しくて、辞めようと思ったことは黙っておこう、そう決めた。

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