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第30話
お互いの飲み物がもう底を尽き始めた頃、千裕くんがテーブルに置いたスマホが鳴った。
「あ、電話だ... ... ちょっと出てくるっ」
「はーい、ごゆっくり」
小走りで店の外に出ていく後ろ姿を見ながら、自分のスマホを確認すると、俺がここに座ってから一時間半以上経っていた。
千裕くんは待ち合わせって言ってたし、もしかしてその相手からの連絡なのだろうか。
あれだけ可愛い子なんだし、恋人からかもしれないな。
残り僅かなのコーヒーミルクを飲み干して、千裕くんと別れたらどうしようか、と考えた。
「おまたせっ!」
「え、もう終わったの?」
「うん。なんか遅くなりそうなんだって。終わったら連絡するって言われたけど... 響くんはもう帰る?」
「うーん... 特に予定は無いからどうしようかなーって考えてたとこ。」
「じゃあさ、もしよかったら移動してご飯食べない?俺お腹すいてきて。」
「ん、いいよ。出よっか。」
カップを返却口に戻し、俺と千裕くんは店の外に出た。
あっという間に暗くなった外は、上着が欲しくなる程冷たい風が吹いていて、思わず身体を縮こめてしまう。
何処に行こうか、と聞くと、千裕くんはアルコールが苦手だと言われ、どうせなら長居出来るファミレスに向かうことに決まった。
ファミレスなんていつぶりだろうか。千裕くんはよく行くらしく、慣れた足取りで最寄りの店舗へと案内してくれた。
店に入り、ドリンクバーと千裕くんオススメのハンバーグを注文すると、すぐにクリスタルファンタジーの話で盛り上がる俺たち。
と言っても俺はほとんど聞いてるだけなんだけど、楽しそうに話す千裕くんを見ていると自分まで楽しくなってきてしまう。
「あーー、早く響くん続き読んでよー!話したいー!!」
「帰ったら読むよ?」
「絶対ね!で、明日また話そう!」
「いいけど... 話すときあるかなー?お昼は主任と一緒でしょ?」
「一緒って決まってる訳じゃないし!アイツが勝手に付いてくるだけだからいーの!」
「アイツって... じゃ、お昼一緒に食べよ。その時までに頑張って読み進めるからさ。」
「やったー!!」
両手を挙げて喜ぶ千裕くんは本当に自分と同い年なのか... そう感じてしまうほど無邪気に笑う姿は子供っぽい。それが千裕くんの魅力なのかもしれないけれど、確かに主任が構いたくなる気持ちが分からなくもない。
主任の前ではツンツンしたり、俺の前ではキャッキャとはしゃいだり、ツンデレキャラなのだろう。
「あ、アイツと言えばさ... ... 響くんって恋人いるの?」
そんなツンデレ千裕くんは、思い出したかのように俺に尋ねた。
「いないけど?なんで?」
「いやさー、ちょっと前からアイツがそう言ってて。響が人のモノになってしまったー!とか騒いでたから、本当なのかなって思ってさ!」
「人のモノって... 俺は誰のモノでもないけど。いないよ、ずーっと前からね。」
「え!?うそ!?なんで?響くんモテるでしょ?」
主任は一体何を言ってるんだ... ... !?
イラッとしながらも恋人はいないと断言し、モテもしない、と付け加えた。
「えー... 絶対居ると思ってた。」
「いやいや... そもそもなんでそう思うの?」
「だって響くんの... ... っと、これは言っちゃダメだった... 」
「は?何??気になるんだけどっ」
「いや... えっとー... そのー... 」
「教えてよ!俺の何???」
「ちょ!響くん怖い!!」
言いかけた言葉の先が気になって仕方ない。
主任にも居るか、と聞かれたし、なんでそう思うのか不思議だったんだ。
ジーーっと千裕くんの目を見ていると、左右をキョロキョロ見渡した後、千裕くんは自分の首筋を人差し指でツンと触った。
「... ... なに?」
「ひ、響くんの、ここ... キスマークでしょ?」
「キスマーク?」
「えっもしかして気付いてない?」
「気付くも何もそんな... ... ... ... 」
千裕くんの指差した場所を触って見るけど、そんな記憶は... ... ... 無い、とは断言出来ない。
そうだ、俺は昨日アキトさんとエッチしたんだ。その時に?... いや、まさかアキトさんがそんなことするわけない。
ただの虫刺されかもしれないし、と思いスマホのカメラ機能を使い確認してみる。
そこには確かに赤い跡があったけど、それをキスマークだと認識するには微妙で、千裕くんには虫刺されだと否定した。
「で、これを主任が見つけて千裕くんに教えた、ってこと?」
「そ、そう。でもアイツには内緒にしてね?俺が言ったってバレたらマジでヤバイから!」
「何がヤバイのさ。ったくあの人ほんっと何考えてるんだか... 教えてくれたらいいのに。」
「意地悪い人だからねー。会社はマシな方だよ?最中とかほんっとクソ意地悪だから。」
うんうん、と頷いてから俺は千裕くんの一言が引っ掛かって『ん?』と首を傾げる。
意地悪だから千裕くんがチクったというのは内緒にしてほしい、ということはわかった。
『最中』がクソ意地悪なのもわかった。
でも、『最中』とは... いつのことだ?
俺は出来るだけ冷静に、何事もなかったように千裕くんに聞いた。
「へ、へー。例えば?」
「うーんと... 名前で呼ばなきゃイかせてくれなかったり寸前で抜かれたり、あとは... 」
「... ... ごめん、ちょっとストップ。」
えーっと、今千裕くんは何て言った?
名前で呼ばなきゃ... ?寸前で抜かれたり... ?
確か主任の愚痴を話してたんだよな?
でも千裕くんの話してることって... ... ...
必死に落ち着こうとする俺を見た千裕くんは、
『あっ』と小さく呟いてから顔を真っ赤にしていた。
うん、分かった。分かったぞ。
千裕くんのこの反応からして、俺の予想は間違っていない。
本当だったら叫んでしまいそうだ、と思いながら俺は真っ赤な千裕くんに確認した。
「千裕くんは主任と付き合ってるの?」
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