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第31話

それはほとんど、いや100%確信して聞いたんだけど、千裕くんは真っ赤な顔のままフルフルと横に頭を振った。 ここで嘘を付くのか... と思ってしまうほど、千裕くんの顔は肯定的なのに。 「... ... つ、付き合っては、ない... ... 」 「どういうこと?」 「その... なんていうか... 」 「セフレってやつ?」 「... ... なの、かな... 俺は... ... つ、付き合いたいけどアイツはきっと遊びだろうし... 」 どんどん小さい声になる千裕くん。 ゴニョゴニョと口を動かすと、更に小さい声で話し出した。 「変だと思うけど... ... 俺はアイツが... す、好きで... だから求められたら拒否なんか出来なくて... ... 嬉しい、から... ... 」 「... そっか。千裕くんが、主任を... 」 「最初はマジでムカつくって思ったんだ。でも関わるうちに... いつの間にか... 」 「主任、優しいところもあるしね。」 「... うん。」 自信なさげに頷く千裕くんは、本当に主任が好きなんだと分かった。 普段ツンツンしてるのは、きっと好きの裏返し。主任をうっとおしそうにするのに付いていくのは好きだからだったんだ... 。 「響くんは、引かないの... ?」 「え?」 「男が、男を好き、だなんて... おかしいでしょ?」 「... ... 引かないよ。気持ち、分かるもん。」 「うそ、なんで... 」 「俺もさ、ちょっと前まで長い片想いしてたんだ。絶対叶わない片想い。結局相手が結婚して、今は普通に親友だって言えるようになった。もちろん何もしてないよ?... だから、同性を好きになることがおかしい、とかは思わない。」 「響くんが... 片想い... そっか、そうだったんだ... 」 食べかけのハンバーグを目の前に、俺と千裕くんは黙り込む。 少し前まで楽しく話していたのに、俺が『叶わない片想い』なんて言ってしまったからだ。 千裕くんの目にはうっすら涙が滲んでいる。 きっと主任が千裕くんを特別可愛がっているのは本当のことだと思う。俺の勘違いなんかじゃない。他の社員にあんな話し方しないし、そもそも必要以上に話さないし。 でも夜遊びが激しい、とか噂を聞いたことがあるし、千裕くんに既に手を出してる時点で好きだからなのか、そうじゃないのかよく分からない。 俺がなにかを言ったところで更に傷付けてしまうかもしれない、そう思うと中々口を開けなかった。 「... 俺、諦めたくないんだ」 「千裕、くん?」 「無理だって分かってる。今だって本当に仕事か分かんないし、全部信じれない。だけどいつか振り向いてくれるかもしれないから、頑張る。」 「... 辛くないの?」 「大丈夫。俺ね、すっげぇ独占欲強いんだ。好きな人の特別になって、独り占めしたい。だからいつかアイツを俺しか見れないようにしてやる!って思ってるんだっ」 「独り占め... ... ... 」 顔を上げた千裕くんの言葉を聞いて、一瞬アキトさんの顔が浮かんだ。 独占欲、特別になる、独り占めしたい... ... 千裕くんの言ったことは、俺がアキトさんに対して思ったことと同じだった。 俺はそれを固執してるって思ったけど、もしかして会いたいと思って、話を聴いて欲しいと思って、キスもエッチも嫌じゃなくて嬉しいとか思ってしまって、恋人がいると分かってモヤモヤしたのは... ... ... ... 俺がアキトさんを好き、だから... ? 「響くん?どうしたの?」 「... ... ... ... どうしよう... ... 」 「な、なにが??」 「... ... 俺、また叶わない片想い... してるのかも... ... 」 「え!?ええ!?響くん!?」 初恋は大親友のダッチー。 叶わないと分かっていながら十数年想いを寄せて、そしてダッチーはともちゃんと結婚した。 二度目の恋は、初恋に踏ん切りを付ける方法を教えてくれた俺のヒーロー、アキトさん。 でもそれは始まった瞬間に終わりが見えている恋だった。 アキトさんには『愛してる』と言える相手がいる。 身体を繋げたところで気持ちが繋がる訳じゃない。 やっとダッチーのことを忘れられたのに。 アキトさんとエッチした翌日、俺はアキトさんを好きだと気付き、そしてそれが叶わない片想いの始まりとなった。

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