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第33話
ーーー寒い。寒くて仕方ない。
布団の中で丸まってるのに震えが止まらない。
熱が上がってる、と予想はついたけれど、体温計を取りに動ける気力も体力もなくて、ただ耐えることしかできない。
もうどれだけの時間そうしていたか分からないけれど、朦朧とした意識の中でポケットの中に入れたスマホが震えた気がして、ゆっくりとそこに手を伸ばす。
長い間小刻みに振動するスマホを、やっとの思いで顔の近くに持ってくるとそれが着信だと分かり、とりあえず通話ボタンをタップした。
「も、しもし... 」
『響くん?』
「... え?ア... キト... さん... ?」
『うん。それより体調悪いんだって?大丈夫なの?』
あれ... ?これ、もしかして夢なの... ?
アキトさんの声が聞こえる。
「... さ、むい... 」
『寒い?もしかして熱あるの?』
「わかんな... ... 」
『今家だよね?少しだけ待ってて、すぐに行く』
耳元で聞こえる声はやっぱりアキトさんの声だ。だけど電話番号を教えた記憶は無いし、体調が悪いことを知ってる訳がない。
アキトさんのことばかり考えていたから、都合の良い夢でも見てるのだろうか...
そうだ、きっとそうだ... 。
夢ならラッキーじゃないか、言いたいこともしたいことも、全部出来る。
そう思うと少しだけ寒さが和らいだ気がして、夢の中なのに俺は目を閉じた。
「響くん!」
バタン、と扉が開く音がしたと思えば本当に都合のいい夢の中だ、アキトさんが家にやって来た。
ゆっくり瞼を開けば、そこには会いたかったアキトさんの顔がある。
「わぁ... ... アキトさんだぁ... ... 」
「鍵開いてたから勝手に入ったよ。それより... やっぱり熱だね。これ冷えピタ、冷たいと思うけど貼るよ?」
「ん... ... ありがと... ... 」
「何か飲む?食べれる?一応薬も... 」
「いい、いらない... それよりぎゅーってしたい... 」
「え?ひ、響くん?」
いつか覚めてしまう夢。
それならして欲しいことを夢の中のアキトさんにしてもらいたい。
何も気にせずにこんな我が儘言えるのも、夢の中だと分かっているから。
「お願い、ぎゅーってして... 」
「... ... そっちいくよ?いい?」
「うん... 」
アキトさんの部屋のベッドの半分... それ以下かもしれない狭いベッドにアキトさんが上がり、布団を捲り上げて入ってきて俺の身体に腕を回した。
そんなあり得ない状況がまさに夢なんだろうけど、一昨日ぶりのアキトさんの体温を感じると、あったかくて、嬉しくて。
「へへへ... ... アキトさんだぁ... ... 」
つい、顔がニヤけてしまう。
アキトさんのシャツからはいつもと同じ、ほんのりブルーベリーの香りがして、夢なのに匂いまで分かるんだな、なんて驚いたりして。
目一杯この匂いを吸っておこうと、グリグリ顔を擦ってみたりした。
「... どうしたの、なんかやけに甘えん坊じゃない?」
「だって夢だもん... したいことしなきゃ、もったいない... 」
「夢?」
「俺の夢の中。じゃなきゃもうアキトさんには会えないから... 」
頭も撫でてほしい、とお願いすればすぐに大きな掌がポン、と頭を撫でてくれる。
もっとぎゅーってして、とお願いしたら腕の力が強くなった。
幸せ。幸せだ。
素直にお願いできて、それを受け入れてくれる夢。こんなに幸せなら、もう覚めなくてもいい。
「ねぇ、アキトさん... 」
「なに?」
「俺ね、アキトのこと、好き... ... 」
全部、『夢の中』なら許される。
好きな人に好きと伝える、それが出来るのはここだけなんだから。
そう思ったら自然と言葉が出ていた。
「アキトさんを俺だけのモノにしたい... 」
「響くん... ... ... 」
「夢の中ならいい... ?」
「... いいよ。俺は、響くんのモノだよ。」
夢の中のアキトさんは、俺の欲しい言葉をくれた。額にチュッとキスをして微笑んで、気のせいかもしれないけれど嬉しそうに見えたのは... 俺の夢の中だからかな。都合よく、こうだったらいいのにって反応をしてくれるんだ。
アキトさんの腕の中は心地よくて、上がった体温が熱のせいなのか、アキトさんから伝わる体温のせいなのか、分からないまま俺は目を閉じた。
『いつまでもこの夢が覚めないで』
そう願いながら。
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