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第34話
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「ひーびき、ねぇ、響ってば」
「ん... ... アキトさん... ?」
「いつまで寝てるの?もう昼前だけど。今日買い物行くんじゃなかったの?」
「あっ!忘れてた!」
「だろうと思った。... ほら、早く準備して?」
「うん。あ、そーだアキトさん、忘れもの!」
「え?... ああ、本当に甘えん坊だよなぁ、響って。」
アキトさんの腕の中で、アキトさんの声で目覚めて『おはようのキス』をしてもらう。
二人で並んで歯を磨いて、二人で作った遅めの朝食を食べて、アキトさんに選んでもらった洋服に着替えて、部屋を出る前にもう一度キスをねだる。
優しく微笑むアキトさんと手を繋ぎ、俺も幸せいっぱいの顔をして並んで歩くーーーーー
「... ... ... ... ゆ、め... ... ... ?」
なんて、夢の中の話に決まってる。
目を覚ませば薄暗く、見慣れた天井が真っ先に視界に入り、誰の腕の中にも居ない身体は身動きが自由に効く。
布団に丸まって眠ったせいか、確かに寒さは消えていたけれど、幸せな夢を見た後の現実ほど冷たいものはないだろう。
ボーッとしながら枕元にあったスマホを見ると、時刻は深夜の2時半。
会社からの不在着信と、入社した頃無理矢理登録された主任のアドレスからメールが一通入っていた。
中身を確認すると、俺の体調を心配する文面と良くなり次第連絡を寄越せ、といった簡潔な内容で、最後に明日... 正確には日付が変わったから今日は休んで良いとのことだった。
「... ... ... 幸せな夢だったなぁ... ... 」
目を閉じれば夢の中のアキトさんの顔が浮かぶ。抱き締められた感覚も、ブルーベリーの匂いも覚えている気がしてしまうほどリアルな夢。もう一度見れないか、と思っても、そうそう都合良く同じ夢は見れないし、眠気も覚めてしまったせいで全く眠れない。
ベッドで横になりながら、幸せだった夢を思い出していると、部屋の真ん中にあるテーブルの上にコンビニの袋が置いてあることに気付いた。
起き上がって袋の中を見れば、ポカリとゼリー。帰りにコンビニなんて寄ったっけ?確かそんな余裕は無かったはずだけど... ...
でもここにあるってことは、覚えていないだけで買っていたのかもしれない。
ポカリに手を伸ばし、一気に飲み干すとますます目が冴えてきてしまい、部屋の明かりを付けた俺は鞄の中に入れた小説を探した。
熱のあったはずの身体は楽になっていて、これじゃズル休みになってしまう、と思ったりもしたけれど、振り返せば迷惑を掛けるだけだしな。
でも、どれだけ探ってもお目当ての小説がない。確かに鞄の中に入れたはずなのに... 。
「おかしいなぁ... ... ... 」
会社に忘れてきたっけ?... でも帰り支度をしたとき、これだけはって鞄に入れたんだよなぁ。
部屋に戻ってから出した記憶は無いけど、一応探すか。そう思い立ち上がると、コンビニの袋の後ろに小説が見えた。
なんだ、隠れてたのか... ... ...
「... ... ... ... え... ?」
小説を重石のようにして、見覚えのある綺麗な文字が並んだメモが目に入る。すぐにそれを手に取り、何度も何度も見直して、俺は手帳に挟んだあのメモを取り出し見比べた。
「... うそ... でしょ... ?」
似ている。いや、似ているなんてものじゃない、同じ人が書いたとしか思えない二枚のメモ。
小説の下にあったメモには、『鍵はポストの中』と一言だけで、ポストを見れば本当に家の鍵が入っている。
もちろん俺が入れた訳なくて、俺じゃない他の誰かがここへ鍵を入れたということになる。
しかもそれはこのメモを残してくれた人で、その人は俺の勘違いじゃなければ... ... ...
「夢じゃ... ... なかった... ... ... ?」
あの幸せな夢が現実だった... ?
アキトさんが、ここへ来たってこと... ?
「... ... ... 俺... 好きって言っちゃったの... ?」
嘘だ、嘘であって欲しい。
俺はアキトさんの幸せを壊したくないのに。
でもそれと同時に、もしあれが夢じゃなかったら。俺が『俺のモノになって』と言ったときの返事がアキトさんの本心だったら... ... ... ?
そんな期待が芽生えてしまう。
ぎゅっと二枚のメモを握り締め、夢なのか現実だったのか、どちらか分からない記憶を繰り返し思い出し、そのまま俺は朝を迎えた。
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