39 / 170

第39話

「もお分かんないぃ、俺はどぉしたらいいのぉ... っ!」 「おい、分かった、分かったから泣くなって、な?」 「無理ぃ、... っく、ふぅ... っ」 「... あーーーーもう!泣くな!俺が話せる範囲で話すから!だから泣き止め!じゃなきゃ犯すぞ!!」 「おか... っ!?あんたバカですか!?」 「バカでもなんでもいいわ、とにかく泣き止め!!!」 怒鳴りながら主任は吸っていたタバコをグリグリと灰皿に押し付け、そしてまたすぐに新しいタバコに火を付けた。 きっとこの人、肺がんとかで死ぬんじゃない?ってくらいのヘビースモーカーだ。 「... ... 俺から言えることは少しだけ。いいな?」 「... はい... 」 「暁斗に恋人は居ない。俺と暁斗の関係はバカでも分かる。だからお前は暁斗に自分の気持ちを伝えればいい。以上!」 「... 少なっ!!」 「言っただろ?少ないって。俺はちゃんと二人が話してほしーの。」 「でも...っ」 「でももだっても無ぇ。分かったら今度こそちゃんと話してこい!分かったな!?」 『恋人は居ない』 その言葉を聞いただけで俺の胸はドキンと跳ねた。 それがもし本当なら?期待してもいいってこと? バカでも分かる、って言われた二人の関係は気になっているけれど、でも俺の頭は恋人が居ないという主任の言葉でいっぱいになった。 「で、次の約束してんの?」 「今夜... 俺が仕事終わったら連絡するって... 」 「んじゃ定時で上がれ。いいな?今度こそちゃんとだぞ!?」 「わかってますよ... !」 何度も念を押され、やっと澄んだ空気を吸える場所に解放された俺はポケットに入れていた名刺を取り出した。 仕事が終わったらこの番号に電話をする... 初めて知った暁斗さんの連絡先。 こんな形ではあるけれど、知れたことが嬉しくて何度も見直してしまう。 「...... あれ?この番号...どっかで... ?」 見直した番号は、何故か見覚えがあった。  それがどこでなのか思い出せないまま、俺はデスクへと戻り残りの仕事時間...... 集中なんて出来ないままキーボードを叩いた。 ✳✳✳✳✳ 定時きっかりで上がった俺は、会社を出てすぐにあの番号に電話を掛けた。 ドキドキする心臓を、飛び出ないようにって押さえながらコール音が数回したところで暁斗さんの声が聞こえた。 『響くん?』 「あっ、はい!響です... 」 『終わった?』 「はい。あの、俺どうしたら... 」 『すぐ迎えに行くよ。会社の前に居てくれる?』 「分かりました」 すぐに行く、そう言った暁斗さんは言葉通り本当にすぐに会社の前に現れた。 数時間前のったばかりの暁斗さんの車に乗り、さっきと同じ公園の脇に車が止まるまで会話と言った会話は無くて、緊張感だけが増していく。 「... タバコ、いい?」 「え?あ、はい... っ」 主任とは違い、ちゃんと俺を気遣って確認してくれる暁斗さん。 ふんわり香るブルーベリーの匂いは、やっぱり嫌じゃない。 タバコだって分かってるのに、暁斗さんが吐く煙は抵抗ないのが不思議だ。 「... さっきはごめんね。色々と... 多分、俺たちは色々と勘違いしてる、って言われたよ。」 「主任にですか?」 「うん。あいつ本当世話焼きでさ、さっきも電話で言われたよ、ちゃんと話しろって。」 「... 俺も、言われました... 」 クスクスと笑いながら暁斗さんは少しだけ開けた窓の隙間に向かって煙を吐いた。 そんな暁斗さんを見ていると、なんだか緊張感が和らいで、俺は仕事中必死に考えた暁斗さんに伝えたいことを小さな声でだけど言ってみることにした。 主任に言われたからじゃないけど... やっぱりちゃんと言わなきゃダメだと思って。 「... 俺、仲良くなった人に固執していくんです。」 暁斗さんを好きだと思う前、暁斗さんの特別になりたいと思ったこと。 千裕くんと話して、暁斗さんが好きだと気付いたこと。 でもそれは暁斗さんの幸せを崩すことになると諦めたこと。 でもあの日、夢だと思ったら気持ちが緩んで告白してしまったこと。 まだ知らない暁斗さんが居ることが、嫌だと思ったこと。 もっと暁斗さんを知りたい、そう思ったこと。 ゆっくりゆっくり話す俺に、まだ長いタバコの火を消して暁斗さんは頷きながら聞いてくれた。 「だから... だから、一回あの告白は取り消してほしいんです。」 暁斗さんの全てを知ってから、ちゃんと告白したい。 可能性があっても無くても。 言いたかったことを言葉に出すと、ふぅ、と全身の力が抜けた。 あとは、暁斗さんの言葉を待つだけ... そう思って暁斗さんの顔を見た。

ともだちにシェアしよう!