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第40話
俺の言いたいこと、ちゃんと伝わったかな... ?
暁斗さんからの言葉が中々無くて、不安になってきた...
「... 響くんさ。それ、既に告白に聞こえるんだけど... 」
「え!?や、だから告白はちゃんと... 」
「だって俺のことばっか考えて悩んで、知らない俺を知りたいって、つまり好きで俺の特別になりたくて俺の全部を知りたい、そういうことでしょ?」
「そ... れは... 、そう、だけど... 」
「あーー...... 可愛い、反則だって... 」
シートにもたれて両手で顔を覆う暁斗さん。
確かにそうだ、好きだよ?好きだから知りたいって思ったんだし、暁斗さんの言ったことは間違ってない。
でも本人にそう言われたら、こっちが恥ずかしくなってくる。
「... 響くんの言いたいこと、分かったよ」
「本当に... ?」
「うん。俺は響くんに全部見せればいいんだよね?」
「... は、はい... 」
「どんな俺でも嫌いにならない?」
「ならない、です」
「... 分かった」
そう言った暁斗さんの顔が、近くなった。近くなったんじゃない、近付いてきたんだ。
あれ?なんて思えば唇に当たるのは柔らかい、暁斗さんの唇で。
「っ!?」
「俺は響くんが好きだよ。ずっと前から、ね。」
「あ、あああ暁斗さ... !?」
「本当は今すぐ食べちゃいたい。それくらい嬉しい。」
「ちょ!?待って、暁斗さん... っ!」
チュ、チュ、と何度も繰り返しリップ音を鳴らしながらキスが落ちてくる。
唇に、頬に、額に... この甘くて優しいキスはどういう意味なのか。
嬉しい、と言った暁斗さんと同じように、俺もこのキスが嬉しかった。
「... っと、これじゃ話にならないか、ごめん」
「ん... 、」
「でももう少しだけ、いい?」
「...... うん」
好きな人にキスしていい?と聞かれて首を振る訳がない。
ポーッとした頭で頷けば、今度は深い、舌の交じり合うキスに犯された。
結局暁斗さんのキスが止んだのは辺りが真っ暗になった頃。
走ってきた車のライトで唇が離れるまで、しつこいくらいに何度もキスをした。
時間にして一時間ちょっとだろうか、エンジンを切っていた車内は寒くなってきて、暁斗さんは『よかったらウチで話そう』と言ってくれた。
もう二度と行くことは無い、そう思っていた暁斗さんのマンションに向かう車内で、暁斗さんの左手がずっと俺の右手を握っていた。
✳✳✳✳✳
「はい、コーヒー。」
「ありがとうございます... 」
前に来たときと何も変わらないシンプルな部屋。ソファーに並んで座り、暁斗さんが淹れてくれたコーヒーの入ったカップを受けとる。
「ブラックでいいんだよね?」
「え?あ、はい...。でも何で知って... ? 」
「ずっと前から好きだった、って言ったでしょ?」
最初に出会った時はアルコール、その次はカフェでコーヒーミルク、その次も、その次もコーヒーミルク...
確かに俺はあのカフェに限ってはコーヒーミルクが大好きだ。でも普段はブラックしか飲まないし、甘いものも苦手。
それを知っているのはダッチーか、会社の人... それも俺と関わりのある人間に限られる。
そういや俺、暁斗さんに一度もブラックが好き、とかコーヒーミルクが好き、とか話したこと無いや。
それにずっと前から好きって... ?
恋人がいるのに、どういうこと... ?
「こーら。考え込まない。聞きたいことはちゃんと聞いて?」
「... なんで、俺の好み知ってるんですか?」
「聞いたから。響くんのことは大抵、ね。」
「聞いたって... 誰に?」
「達郎と、響くんの主任さん。」
ここでも出てきた主任。
何故?そんなに仲がいいの?二人は友達だったの?
暁斗さんの話すことは疑問だらけで、質問する度に気になることが増えてしまう。
とりあえず主任のことは後回しにして、俺は一番気になっていた暁斗さんの恋人のことを聞いてみた。
「... 暁斗さんは、恋人、いるんですよね... ?」
「いないよ。どうしてそうなったかなぁ、俺一度も恋人が居るとか言ったことないんだけど。」
「でも... 暁斗さんが... その... 」
「俺が?何?言って、響くん」
「...... 聞いたんです。多分電話で、愛してるよって言ってたのを... 」
「... 電話?... ... ... ああ、そういうこと。」
盗み聞きしてすいません、そう謝ると暁斗さんは笑いながら気にしてないよ、と言ってくれた。
肩を震わせ笑う姿は初めて見た暁斗さんだったんだけど、そんなに笑えることだったのだろうか。
「そっか、そっかそっか。うん、なるほど。... ... 誤解させてごめんね。でもあれは... 挨拶っていうのかな。恋人じゃないから安心して?」
「挨拶?」
「うん。... ミキはそんなんじゃないし、響くんも知ってると思うし。本当に俺はフリーで響くんが好きだったんだ。信じてくれる?」
恋人はいない、そう断言されてホッとする反面、俺も知ってるミキさんって一体誰なんだろう。モヤモヤが残ったけれど、何度も暁斗さんが俺を好きだと言ってくれて、そのモヤモヤはドキドキに変わっていく。
人の気持ちって単純だ。
あれだけ悩んでいたのに、もうどうでも良くなってる。
暁斗さんに恋人はいない、そして俺を好きだと言ってくれる。
それだけでドン底から這い上がって、天国にいるみたいだ。
「信じる。... だから、最初から全部、教えてほしい。俺を好きになったとこから... 」
「うん、話すよ。全部、ね。」
そっと手を握られて、その手を俺も握り返す。
そうすれば大好きな暁斗さんの笑顔がそこにあって、ゆっくりと暁斗さんは話し出した。
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