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「... ... ... あ、れ... ... ?」
「あ、響くん... 大丈夫?水飲む?」
「うん、欲しい... ... ... 」
気が付くと見慣れた天井があって、横には暁斗さんが座っていて、冷たいミネラルウォーターのペットボトルを渡してくれた。
ゴクゴクと一気にそれを飲めば、だんだん冴えてくる頭。
確かお風呂に入って、俺の息子がー!とか、湯船から出なきゃーとか、そんなことを考えてたらどんどん熱くなってクラクラして...
「っ!あああ暁斗さん!!!」
「ん?」
「お、おおおお俺!?」
「ああ、逆上せちゃったんだよね?」
「ちがっ、そうじゃなくて!!」
俺はベッドの上で、いつもパジャマ代わりに着ている服をちゃーんと着ていた。
それはつまり暁斗さんが湯船から俺をここまで運んで、そして服を着せたってことで...
しっかり下着まで履いているということは、俺のすっぽんぽんの状態を暁斗さんに見られてしまった、ということだ。
「... 一応、見ないようにはしたけど... ね?」
「... ... ... すいませんでしたぁ... 」
「大丈夫だよ?それより身体は平気?」
「ん... まだボーッとするけど... 大丈夫... 」
「逆上せるまで入るだなんて、よっぽどあの入浴剤気に入ったんだね。今度一緒に買いにいこうか。」
「... ... ... うん」
悩んで逆上せるとか、俺はバカか。
結局全裸を見られた上に作戦は失敗だし、迷惑までかける始末。
優しい暁斗さんは何も言わずにベッドに横になり、俺が眠るまで頭を撫でてくれた。
✳✳✳✳✳
それから俺は時々千裕くんに相談しながら暁斗さんがその気になるような作戦を実行し続けた。
... と言っても、一週間が経った今日まで進歩は無くて、そろそろ俺の欲求不満が爆発しそうな上に、失敗続きで心が折れそうになっていた。
わざとらしくくっついてみたり、寝る前のキスを何度もせがんだり、服も露出度の高いものを買い足して着てみたり。
昨日はちょっとエッチな洋画の、DVDを観たんだけど、エッチなシーンに俺が耐えられなくてあんまり意味がなかったり。
やっぱり暁斗さんは俺に興味がないんだろうか。あのエッチで飽きちゃったのだろうか。
不安と不満ばかりが募る毎日、ため息ばかり増えていく。
「ひーびきくんっ!お昼一緒にいこーよ!」
「え、ああ、もうそんな時間?行く行く」
仕事も集中できなくて、千裕くんに声をかけられるまで、ボーッとしていた。
どうせならカフェにしよう、と二人でカフェに向かう途中、千裕くんは『それでどうだった?』と俺に作戦のことを聞いてきた。
協力してくれているのに申し訳ない、と俯いてくびを横に振ると千裕くんは苦笑いしていた。
それもそうだ、あれやこれやと作戦を立ててくれるのはほとんど千裕くんなのに、全部上手くいかないんだから。
「あんまり落ち込まないで?ほら、アイツがおかしいだけかもしれないしさ!頻度は人それぞれなんだし!」
「うん... ... ... 」
「俺ももっといい作戦考えるからさ!ね?そんな顔しないで?」
「... ありがと、千裕くん... 」
励まされながらカフェに到着し、飽きもせず同じメニューを注文する。
千裕くんは食べながら次はこれはどうか、とか色々アイデアを出してくれたけど、俺は全部が上手くいかないって思えてしまって、どうしても落ち込んでしまう。
千裕くんと主任は、付き合ってないし千裕くんの片想いのままらしいけどほぼ毎日エッチしてて、どうして両思いの俺たちはそうならないのか。
人それぞれって言っても、両思いだと分かる前の方が暁斗さんは積極的だったような気がする。
変わってしまったのは何故なのか?
行き着く先は『俺が下手くそだった』『一度ヤッたらやっぱり違った』とか、マイナス志向一直線。
「... うーん。こりゃ重症だな... ... 」
千裕くんの呟きにも頷くことしかできない。
どうしてこんなに上手くいかないのか、涙が出そうだ。
「よし!響くん!今日仕事終わったらウチにおいで!!」
「え... ?千裕くんの... ?」
「って言っても色々あって俺のウチじゃないけど!アイツには言っとくからさ!ね?」
「???」
「今日は会えないって言っておいてよ?いい?」
「あ、う、うん... 分かった... 」
よし、決まり!と言った千裕くんはそのまま主任に電話をしていた。
俺も暁斗さんに『今日は千裕くんのお家にお邪魔することになったから会えない』とメッセージを送った。
自分勝手で暁斗さんに悪いなぁ、なんて思えば、すぐに『楽しんできてね』と返信が来た。
なんで?とか寂しいとか、そんな返信をどこかで期待していた自分に更に落ち込んだけど、目の前でニコニコしている千裕くんを見るとため息もつき辛い。
こうして俺は、千裕くんの家にお邪魔することになった。
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