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2-6
「千裕!!!!!!」
千裕くんの手が俺のズボンを脱がそうとしたその時だった。
リビングの扉をバン!と開けたのは部屋の主である主任だった。
「響くん!?」
そしてその後ろには、俺の愛しい人、暁斗さんが居た。
「え、なんで... 」
「なんでじゃねえよ馬鹿!お前自分が何してるか分かってんのか!?」
「ちょ!?やだっ離してっ」
「響に謝れ!」
「やっ、離し... っ」
跨がった千裕くんを強引に引きずり降ろし、そのまま主任は千裕くんを別の部屋に連れていった。
何がどうなっているのか、状況が分からない俺は、ただ目の前に居るはずのない暁斗さんを見ることしか出来なかった。
「あ... きとさ... 、俺... っ」
この状況は、『浮気』なのだろうか。
暁斗さんはやけに冷静な表情で俺に近付いた。
それが怒っているように感じて、ガクガクと身体が震える。
「... 大丈夫。怒ってないから。」
「で... でも... 」
「大丈夫だから。」
暁斗さんの声は低かった。
いつものように微笑むこともない。
怒ってない、大丈夫、そう言ってもいつもの暁斗さんじゃないことはすぐに分かった。
「立てる?立てるなら帰るよ」
「... ... う、ん」
主任も千裕くんも戻ってこない。
震える身体をなんとか落ち着かせ、先を歩く暁斗さんの後ろをついて歩く俺。
何故ここに暁斗さんが居るのか...
帰ってこないと言った主任がどうして帰ってきたのか。
あんな状態だったけど、俺は何もしていない。
聞きたいこと、言いたいことはあったけど、それを口にする勇気なんて無かった。
ーーあまりに暁斗さんの表情が冷たすぎて。
マンションの地下にある駐車場まで辿り着くと、そこには暁斗さんの車が停まっていた。
運転席に座る暁斗さんは『早く乗って』と一言だけ俺に言うと、そのまま暁斗さんのマンションに着くまで何も話さなかった。
そのことがますます俺を不安にさせる。
怒っているのか、呆れているのか、それとももう冷めてしまったのか。
暁斗さんと何もないことを嘆いた自分、それが友達だと思っていた千裕くんに跨がられ、触られている所を暁斗さんに見られてしまうだなんて。
タイミングが悪いにも程がある。
きっと、自分が逆の立場だったら怒って泣いて、信じられなくなるだろう。
未遂とは言えど、嫌な思いをさせたことに変わりはないんだから。
しばらくして、暁斗さんのマンションの駐車場に車は停まった。
ここから先どうしたらいいのか、固まる俺。
暁斗さんが助手席のドアを開き、俺の腕を引いたことによって俺は車から降りたんだけど、いつもなら絶対にこんなことしない暁斗さんに驚いてしまった。
強く腕を引かれ、無言のまま着いた暁斗さんの部屋。
電気も付けずに、そのまま寝室に連れていかれた俺はそのままベッドに押し倒された。
いつもは二人で仲良く眠るベッドを、これほど冷たいと感じたことはない。
同じくらい冷たい視線に、俺は咄嗟に謝罪の言葉を口にしていた。
「あき、とさ... ごめんなさ... っ」
「... 何が?何がごめんなさいなの?」
「俺... っ、違う、何もしてない... っ」
「うん、知ってる。」
「でも、でも... っ怒ってる、暁斗さん怒ってる... !」
「... 千裕くんに触られたんだよね?」
「さ... 触られれたけどそれは千裕くんが... !俺は頼んでない... っ!」
「うん、それも知ってる。知ってるけどさ... ... ... 」
握られた手首にギュッと力が入る。
それは男の俺でも痛い、と感じるくらいだった。
「... 痛い、よ... 暁斗さん... っ」
「... ... ... 俺がどれだけ我慢してるか知ってんの?」
「いっ!?痛っ!」
「無防備にも程があるって... ... 」
「暁斗さん!痛い... ... っ!!!」
握る力がどんどん増して、耐えれず俺は痛いと叫んでしまった。
その瞬間、パッと離れた暁斗さんの手。
そしてそのままベッドを降りて、俺に背を向けた。
「悪いけど今日は一人で帰れる?」
「... ... ... うん」
「頭冷やす。腕、ごめんね。」
「... ... ... う、ん... 」
暁斗さんは怒ってる。
それがハッキリと分かった。
今にも溢れそうな涙を堪えて、バタバタと逃げるように部屋を出た俺。
走って、走って、走って... その頃には堪えた涙が我慢出来ずに流れていて。
自分のアパートに戻るなり玄関で泣き崩れた。
もう、だめだ。
きっと嫌われた。
あんな目をした暁斗さん、見たことがない。
「っ、く... ふ... っ」
こんなことになるなら、誰にも相談なんかするんじゃなかった。
... いや、素直に暁斗さんに言えばよかった。
千裕くんだけが悪いんじゃない。
俺にも悪いところはある。
後悔してもしきれない、時間を戻すことなんかできないんだから。
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