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「... ... 二人とも、顔上げて。」 そんな沈黙を破ったのは暁斗さんの低い声だった。 「でも... っ!」 「暁斗、」 『まだ許された訳じゃないから』 きっと床に頭をつけたままの二人はそう言いたかったんだろう。 でも、暁斗さんは譲らなかった。 「上げろって言ってんだろ。早く。」 それは俺が初めて聞いた、暁斗さんのキツい命令口調の言葉。 俺も、千裕くんも、主任までもが驚いて暁斗さんを見る。 「... ... 話は分かったから。俺は響くんが大丈夫ならそれでいい。二人を許すかどうか決めるのは響くんだから。」 でもそれはさっきの一言だけで、次に出た言葉はいつもと変わらない、暁斗さんの話し方だった。 許すかどうか、なんて答えはひとつに決まっていた俺は、二人を見ながら自分の気持ちを伝えた。 「俺は大丈夫。確かに驚いたけど、千裕くんを嫌いとか全く思ってない。それにこれで前みたいに話せなくなる方が嫌だよ... 」 そう言うと、千裕くんは声を出して子供みたいにわんわん泣いた。 主任は壁にもたれていて、全身の力が抜けたような、そんな格好をしていた。 これで多分俺と千裕くんの問題は片付いたんだろうけど、俺がそれ以上に気になっているのは暁斗さんのことだ。 暁斗さんは『大丈夫』と言ったけど、本当なのだろうか。 横に居るのに、まだ冷たさを感じる暁斗さんはきっと俺を許してはいない。 どうしたらいい?どうしたら俺たちのこのギスギスした空気を元通りに出来る? ... 堪えていたけど、我慢の限界だ。 俯いて、流れた涙をバレないようにしていると、ふわっと暁斗さんの腕が俺を抱き締めた。 「... 響くん」 「っ、な、何... ?」 「そんなにビクビクしなくても大丈夫。怒ってないし嫌いにもなってない。」 「え... ... 」 「だから泣かないで?目、これ以上腫らさないで。」 一昨日ぶりの暁斗さんの体温。 一昨日ぶりの暁斗さんの匂い。 そしていつもと同じ優しい声。 「... っ、ごめんなさ... 、暁斗さ... っ!」 「うん、大丈夫だから。ね?」 「俺っ、暁斗さんじゃなきゃやだ、嫌だよぉ... !っうわぁぁぁあん」 抱き締めた腕の力が強くなって、俺の不安が一気に開放されたような気持ちになれば、俺も千裕くんのようにわんわんと声を上げて泣いてしまう。 とある平日の午前、23にもなる大人の男が二人、大声で泣くだなんて。 信じられない失態なんだけど、それでも良かった。 この腕が、暁斗さんが俺を許してくれたなら。 まだ好きでいてくれるなら、何でもいい。 暁斗さんは俺を、主任は千裕くんを抱き締めたまま、俺たちが落ち着くまでずっとそのままで居てくれた。 ✳✳✳✳✳ 「じゃ、とりあえずまた夜に。」 「待ってるね、二人とも!」 ひとしきり泣いて、落ち着いた後俺と暁斗さんは一度暁斗さんのマンションに戻ることになった。 千裕くんは主任の計らいで『体調不良』でお休み、俺は盆休みの分割、主任は元々休み、暁斗さんは有給。 せっかく4人が休みなんだから、とすっかり元気になった千裕くんの提案で、主任の部屋で鍋パーティーをすることに決まった。 そもそも今日は休みじゃなかった暁斗さんは、早朝主任から話があると言われて有給を取ったらしいけど、まだ仕事が残ってるとかで夜まで自宅に戻ると言い出して、離れたくなかった俺も着いていくことにしたんだ。 仕事の邪魔はしないから、と言えば『俺も響くんと居たいから』って微笑んでくれた暁斗さんも、すっかり元通り、いつもの暁斗さんで、俺は嬉しくて車の中からずっと暁斗さんの手を握っていた。 玄関を開けて中に入ると、その手は離れ、代わりに暁斗さんの腕が俺を正面から抱き締め、 「... ... ... もう、他の人に触れさせないで」 と、暁斗さんらしくない、弱くて小さな声がそう言った。 きっとこれは暁斗さんの本心なんだと思う。 千裕くんにはああ言ったけど、やっぱり嫌だったんだろう。 「しない、絶対にしない... ... ... 」 俺に触れるの暁斗さんだけ、そう誓って暁斗さんを見上げると、一昨日ぶりに暁斗さんの唇が俺の唇に触れた。 あったかくて、柔らかくて、甘いキス。 ... もうエッチがしたい、とか、俺に興味がないのかな、とか、そんなこと考えるのはやめよう。別にしなくたって幸せなんだから。 俺は、暁斗さんと一緒に居られるならそれでいい。 そう思い目を閉じた。 「っ、んん... !」 「でね、ここからが本題なんだけど。」 「... ふ、ぁ... ?」 「俺まだ聞きたいことあるんだ。いい?」 最近することのなかった舌の交じり合うキスに変わると、暁斗さんの表情も変わった。 それはゾクリとしてしまうような、色気ムンムンの艶めいた表情で、『嫌だ』なんて言えるはずなくて。 首を縦に振れば、再び深いキスが落ちてきた。 「隠し事は無し、だよ?」 ーーーあれ?と思う頃には抱き上げられて、そのまま寝室に向かう暁斗さん。 優しくベッドに降ろされた俺は、嫌な予感がした。

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