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イキたい。なのにあと少しという所でイケない。これ程までに快感が怖いと思うことはなかった。 もうおかしくなる、ってくらい寸前で止められていて、俺の先端は我慢汁でドロドロ。 それを暁斗さんは手に絡めているせいで、弄られる度クチュクチュ音がする。 わざとらしく立てる音すら刺激になるのに、それをやめてとは言えない俺は、どうしたらいいのか、回らない頭で考えていた。 「あっ、ああっ... っ、ふ、」 「辛い?辛いよね。」 「んっ、つ、ら... っ」 「どうする?響くん、このままイケないの、嫌だよね?」 「いやぁ... っ!ぁ、で、でも... っ」 「... ... 強情だね」 どうして俺は『まだだめだ』と思うんだろう。 暁斗さんと言うように、付き合ってから知ればいいことだってある。 それに俺も、暁斗さんを俺のモノって言いたい。付き合わなくても今までと特別変わることはないけれど、でもやっぱり『俺の』って独占したい。 なのになんでだっけ?何かが引っ掛かっていて、『まだだめだ』と思っていたはず... 「っひぁぁ!?」 「このままじゃ埒があかないし、ね?」 「いっ... !ゃ、だめ、暁斗さんっ!」 「痛くないようにゆっくりするから」 まるで考えるな、と言うかのように暁斗さんの指が後孔に侵入する。 言葉通りゆっくりゆっくりと、肉の壁を割って入る感覚はまだ違和感でしかない。 だけど俺は知っている。これが快感に変わることも、俺の頭がおかしくなることも。 だからこのまま流されてしまう前に思い出さなきゃ... 何が俺にだめだと思わせているのかを... 「っ、ふ、うぅ... ... っ」 「ん、奥まで入ったよ」 「んっ... ... 動かさないで... ... っ」 「やーだ。ちゃんと気持ちいいトコ、触ってあげるから」 「やっ!だめ!それしたらっ、俺っ」 容赦なく気持ちいい所... 千裕くんに教えてもらったあの場所を探る指先。 気持ちいいことは覚えている。だからだめだと言っても俺の身体は『探して』と期待して更に蜜を出す。 ビリッと全身に電流が流れるような感覚に襲われれば、もう思考は止まり快感だけを求めてしまい、生理的な涙で滲む目で暁斗さんをみれば意地悪な顔して口角を上げていた。 もう、流されてもいいのだろうか。 そう思った時だった。 ピリリリ、と暁斗さんのスマホが鳴った。 これが電話の着信音だということは知っていて、まだ仕事が残っていると言っていたことを思い出した。 それは暁斗さんも同じだったようで、小さく舌打ちをしたあと、指を入れたまま電話に出た。 「... ... はい」 動きが止まった指。 はぁはぁと息を整えながら、俺は今しかない、と頭を働かせる。 何が引っ掛かっていたのか、何が気になってだめだと思うのか。 「ああ、はいはい。... うん、いいよ」 相手は誰なんだろう。 仕事の人?にしては暁斗さんの話し方は軽くて、親しい人じゃないかと考える。 と、思えば止まった指が再び動き出し、ゆっくりだけど確実に前立腺を狙って動く指に、『あっ、』なんて声が出てしまう。 「え?... ああ、まあそんな所だけど。」 暁斗さんは俺が大きな声を出せば、それが電話越しに相手に伝わってしまうことを分かっていて指を動かしている。 そして堪える俺を意地悪な顔で見ていて、どんどん指の動きを早め出した。 「っ、ふ... っ、ん... ぁ、」 「いや、いいよ。また今度で。」 「ん、んんっ... 、」 「あーそうだな、じゃあそうしてくれる?響くんも連れていくから。」 「っああ!!!」 俺のことを呼んだわけじゃないのに、『響くん』と言った暁斗さんの声に熱が上がる。 そしてそれを見た暁斗さんは、ギュッと根元を握ったから、声なんて押さえられない。 絶対に今のは聞こえたはず。 なんで暁斗さんはこんなにも意地悪なんだ。 ... 俺の知らなかった暁斗さんは、優しいだけじゃなくてダッチーの言うように『鬼』のように意地悪なのだろうか。 「ね、もういい?俺忙しいんだけど」 暁斗さんは片手に電話、もう一方の手は俺の中に入れたまま、額にキスをし微笑む。 『いつまで耐えるの?』 『もういいでしょ?』 そう言わんばかりの顔。 俺だって早く解放されたい。 引っ掛かっていたことが思い出せないってことは、それくらいの事だったんだろ?と自分に言い聞かせ、暁斗さんの電話が終わったら都合が良くてごめんなさいって謝って、こんなところでこんなことされながら、ムードも何もないし暁斗さんに流されてるけど、付き合ってって言おう。 自分が冷静だったらこんなこと思わなかった。 でも、もう溜まりに溜まった俺の息子は限界を超えていて、ただただ欲求に溺れていた。 だけど、神様はちゃんと俺を見てるんだ。 『それは違うだろ』って、俺を一瞬で現実に引き戻す言葉を聞かせてくれた。 「じゃあまた。... ... 愛してるよ、ミキ」 暁斗さんと話をしてから、もうずっと聞くとこが無かったからかな。 なんで忘れてたんだろう。 『ミキ』という、俺のまだ知らない人の存在。 暁斗さんは恋人じゃないって言っていたけど、もう三回も俺は聞いている。 俺の大好きな声で、俺には一度も言ったことのない『愛してる』という台詞。 これだ。これだったんだ。 俺が最初に引っ掛かったこと。 ミキさんの存在と暁斗さんとの関係。 それを知らずして付き合うなんて、出来るわけがない。 サァーッと身体の熱が引いて、電話を切った暁斗さんの身体を押し退けて俺はベッドを降りた。 格好なんて気にせずに、とにかく一人になれる場所を探し、リビングを出たところにあるトイレに駆け込むと鍵を閉めた。 「響くん!?どうしたの!?」 焦るような暁斗さんの声。 大好きな暁斗さんの声。 だけど、俺の知らない人に『愛してる』と言った声で、その口で、俺の名前を読んでほしくない。 「... 一人にして... ... 」 それだけ言うと、俺はうずくまって耳を塞いだ。

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