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Side AKITO
千裕くんが響くんに跨がっている姿を見た瞬間、怒りよりも嫉妬が俺の頭を真っ黒に染めた。
響くんの気持ちを考えて、告白を待っていた1ヶ月。どれ程その身体に触りたくて、押し倒したくて、またあの甘い声で啼いて欲しいという思いを押し殺したか... 。
それなのに自分以外の人間が、自分より先に響くんに触れたことが『許せない』と感じた。
響くんも響くんだ。何度も飲みすぎるなって言っているのに、抵抗できない程飲んだのか?
それとも合意だったのか?
... 信じていない訳じゃない。だけど今は、響くんに優しくできる程余裕が無かった俺は、この日初めて『一人で帰って』なんて冷たいことを言ってしまった。
一晩頭を落ち着かせれば、冷静になれるだろう。そう思いベッドに横になると、やけに広く、そして冷たく感じ眠れない。
結局適当に手に取った酒を流し込み、見もしないテレビを着けてソファーに座ると、いつの間にか眠っていた俺は、早朝だというのにうるさいほど鳴り続ける着信音で目覚めた。
「... ... ... 何」
『寝てた?』
「当たり前だろ。何時だと思ってんだ... 」
『朝の4時。...じゃなくて、千裕が... 悪かったな。』
「... 別に」
『怒ってるだろ?本当に... ごめん。』
それは前日のあの事を謝罪する電話だった。
もう怒っていない、と言えば嘘になるかもしれないけれど、車の中で酒癖の悪さを聞いた以上、それが下心があってのことだとかを疑うことはしていない。
だから千裕くんを責める気持ちは無かった。
... それ以上に、俺の中で響くんに触れたい、という気持ちが増殖していた。
そもそもこんなことになるなら、我慢せずに肌を重ねればよかった。
形にこだわったのは俺だ。
でも付き合っていようと無かろうと、大切に思う気持ちは変わらない。
変な我慢が招いた事態は俺の責任もある。
だけど、ここまでコイツが謝ることはもう何年もない。
本気で悪いと思い、電話してきたんだろうとすぐに分かった。
「じゃあ土下座な。それで許す。」
『分かった。暁斗、今日仕事は?』
「あるけど?それが?」
『早く謝りたい。時間作れない?有給消費しなきゃって、前に言ってたよな?』
「... ... 休めってか?はぁ... 。分かった。なんとかする。」
『ありがと。響も千裕も休ませるよう手回ししとくから、ウチでいいか?』
「いいよ。また連絡する。」
ーーーそしてこの数時間後、冗談半分で口にした『土下座』は俺と響くんの前で実行された。
きっとたくさん泣いたのだろう、響くんの目は赤く腫れていた。
それ以上に千裕くんは酷い顔をしていて、可哀想に思えてくる位だ。
響くんと千裕くんが和解したところで大泣きする身体を抱き締めれば、我慢していた欲求が押さえきれなくなってしまい、本当は仕事なんて1つも残していないのに嘘をついて、俺は響くんと自宅に戻った。
今朝電話を切ったあとに考えたことを実行するために。ーーー
✳✳✳✳✳
「っああ!!」
数ヵ月に触れた響くんの身体は、あまりに甘すぎた。
理性なんてすぐに消え、目の前で快楽に溺れていく響くんの姿を見ればもっと苛めたくなる。
酷いと思いながらも、俺は強行手段に出た。
『付き合ってからイカせてあげる』
なんて、自分でもおかしなことを言っていると思ってる。だけどそうでもしなきゃ、俺の我慢は水の泡。そしてこれ以上待つだなんて耐えられなかった。
もっと触れたい。もっと愛したい。もっと苛めたい。
もう二度と他の人間が触れないように、この身体は俺のモノなんだと口にしたい。
そう思って触れる箇所を増やせば甘ったるい声が部屋に響く。
きっとあと少し、あと少しで響くんは堕ちる。
そして後から『流されてしまった』と落ち込むんだろう。
でもそうならないように、俺の口からちゃんと告白しようと考えていた。
順番はまたおかしくなるけれど、響くんを愛してることはいつだって変わらないのだから。
今日を二人の特別な日にしよう。
今は苦しいかもしれないけれど、後から目一杯甘やかしてあげるから。
そんな事を考えていながら意地悪ばかりしたせいなのだろうか。
空気の読めない着信を取り、『何鍋がいい?』だなんてどうでもいい内容に返事をしながら響くんの反応を楽しんでいた俺は、無意識でまたあの言葉を口にしてしまう。
何度も何度も口にしてきて、そこに気持ちなんて一切入っていない言葉。
俺からしたら挨拶、いやただの一言で意味のない言葉。
「じゃあね。... ... 愛してるよ、ミキ」
その一言がどれだけ響くんを傷付けたか。
後悔しても、もう遅い。
俺から逃げるようにベッドを降りた響くんが、この日俺の腕の中に戻ってくることは無かった。
Side AKITO END
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