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「響くん、あのね... ... 俺、ちゃんとそれ暁斗さんに言った方がいいと思う」
「っ、え?」
「響くんは何でも自分独りで抱え込みすぎだよ。... きっと今の言葉、暁斗さんに言ったら喜ぶと思うよ?」
「でも... ... 暁斗さんはミキさんが... 」
「うん、だけど言った方がいい。絶対に。」
すんすん鼻を鳴らす俺に、千裕くんは諭すように言った。
それはやけに冷静で、千裕くんらしくないと言ったら失礼だけどいつもの千裕くんとは違っていた。
「... 前みたいに、ちゃんと話し合って?響くんと暁斗さんなら、きっと大丈夫だから。」
「千裕くん... ... 」
「今日でも明日でも、早いうちにだよ?時間が開けば話にくくなるんだから。ね?」
1ヶ月前、俺が悩んでいたとき背中を押したのは主任だった。
そして1ヶ月経った今日、背中を押すのは千裕くん。
暁斗さんが世話焼きって言ってたのは本当なんだな。主任の側にいる千裕くんは、主任そっくりなことを言うんだから。
泣いて思いを口に出したら、少しだけどスッキリした。
千裕くんがトントンと背中を叩くリズムが、俺に眠気を誘い、昨日今日と何度も泣いて、あまり眠れていない俺には子守唄のように感じて、だんだんと瞼が重くなってしまう。
「... ... スゥ... ... スゥ... ... ... ... 」
「響くん?... ... 寝ちゃったか、」
こんなところで、千裕くんもいるのに...
分かっていても、襲ってくる睡魔には勝てなくて... 。
ーーー俺が覚えているのはここまで。
「... ... あ、もしもし、千裕です。響くん、今寝ましたよ。... はい、だいぶ落ち着きました。大丈夫ですよ、目覚めたらちゃんと話してください。」
だから、眠る俺の横で千裕くんが暁斗さんに電話をしていたことも、その電話で暁斗さんが部屋に戻ってきたことも、千裕くんが暁斗さんに説教じみたことをしていたことも知らなかった。
✳✳✳✳✳
当たり前のように朝が来て、俺は目を覚ます。
誰が運んでくれたのか、広いベッドの上で一人きり。
千裕くんが?と思いながらリビングに行くと、テーブルの上にはいつかと同じようにあのカフェのサンドイッチが置かれていた。
こんな朝からやっていないし、消費期限ギリギリのそれはきっと昨日のうちに暁斗さんが買っていたものなんだろう。
だけど、その暁斗さんの姿は何処にもなく置き手紙だって見当たらない。
スマホを見てもメッセージは無いし、拒絶したのは自分なのに悲しくなってしまい、悪いのは暁斗さん、そう思っていたのにあの時扉を開ければよかった、と後悔してしまう。
だけど自分からメッセージを送る勇気も電話する勇気も無い。
それに後悔はしても『俺は悪くない』っていう変な意地が張り付いて、結局その日から一週間、暁斗さんに会うことも連絡をすることも無かった。
「おい響、ちょっと来い」
そんな俺に『世話焼き』な主任から呼び出しがかかる。
会社でしか主任と会うことも無くて、だからなのか仕事中だというのにお構いなしにプライベートの話をするのは決まって煙たい喫煙所。
もちろん拒否権が無いのは分かっていたから、黙ってその中に入った。
「お前さ、いつまで避ける訳?」
「別に避けてませんけど。... 俺、悪くないし」
「悪いとかじゃなくてちゃんと話しろって言っただろ?」
「... 俺からしなきゃいけないんですか?」
避けてるつもりはない。
ただ暁斗さんから連絡がないからマンションにも行かないし、自分から連絡もしないだけ。
暁斗さんから連絡があれば応えるつもりだし、話だってするつもりだったけどその連絡がないんだから仕方ないじゃないか。
「暁斗、スマホ壊したらしいけど。」
「... ... は?」
「お前が引き込もってからウチに来たけど、原因が分かって床に投げ付けて、そのまま壊れた。」
「... ... ... ... 投げ付けたって... 」
「電話に出なきゃよかった、また傷付けたって。だから連絡したくても出来ないんじゃねーの?」
「... ... 会いにきたらいいじゃないですか。どうせ主任とは会ってるんでしょ。」
「お前が暁斗を拒絶したんだろ?それなのに会い行く、なんて出来ないんだろ。」
それは暁斗さんらしくない行動で信じられない。
だけどもしそれが本当なら、俺が会いに行くまでこのままの状態ってこと... ?
「ちなみに明日から出張って言ってたっけな。今日を逃したらしばらく会うことも出来ないぞ。」
「... ... ... ... っ」
「... 暁斗は浮気なんかしない。お前だけしか見てない。ちゃんと理由があったんだ。だから頼む、暁斗に会って話をして欲しい。」
そう言った主任は俺を残して喫煙所を出た。
こんな場所に連れ込んだくせに、俺の前で初めて一本もタバコに火を着けずに。
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