暁斗さんが俺を抱き締める腕の力を強める。 でもそれはさっきと違って優しくて、俺の心臓がドキンと跳ねた。 「... ... 俺は弥生のことみたいに... 言われなきゃ気付けないような、響くんの知らない部分がまだあるかもしれない。」 「... え... ？」 「あまり自分のことを他人に知られたいタイプじゃなかったからね。」 「そう、なんだ... ... 俺が知りたがるの、嫌... だよね」 「ううん。響くんには逆で知ってもらいたい。だけど何を話せばいいか分からなくて... っていうのは言い訳みたいになるね。でも、響くんになら全部教えたい。それで響くんのことも知りたい。... これから一緒に過ごす時間の中で。」 暁斗さんの瞳の中に、俺が映るのが分かるくらいの近い距離でそう言った。 俺が『もういい』と言ったばかりなのに、『これから一緒に過ごす時間』と言った暁斗さんの言葉が胸を熱くする。 「... 俺はどんな響くんが好きだよ。もう、我慢せずに響くんは俺のモノって言いたいんだ。」 「あき... とさ、ん... ... ... 」 「俺と、付き合ってください」 次の言葉が更に俺の胸を熱くした。 それは俺が一度取り下げた言葉で、 暁斗さんに待ってってお願いした言葉。 「... っ、い、いの？俺独占欲強いしすぐ泣くし... っ」 「俺の方が強いよ。泣き顔は可愛いけど、俺のことでは泣かせないようにする。」 「迷惑かけるかもよ？我が儘言うよ？」 「響くんにならどれだけでも。むしろ甘やかして俺から離れられなくしたい。」 「... ... ... っ、俺っ、俺も、」 「うん、」 「っ、暁斗さんを俺のモノにしたい... っ、暁斗さんを他の人に渡したくない... っ！」 さっき鉢合わせた時、可愛らしい女の子になら... って仕方ないと思った。 でもそれは本心じゃない。 本当は誰にも暁斗さんを渡したくない。 暁斗さんは俺の、俺だけのモノってそう言いたい。 「暁斗さんが好き、暁斗さんだけが好き... 」 やっぱりこの人を諦めるなんて出来ない。 それほど俺は暁斗さんのことが好きになっていた。 「... じゃあ、俺のモノになってくれる？」 「うん... っ」 「付き合ってくれる？」 「うん... ... ... ！」 ああ、俺また涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔してる。 暁斗さんはそんな俺を見て微笑んで、またギュッと抱き締めてくれた。 遠回りと勘違い、言葉の足りなさでここまで辿り着くのにすごく時間がかかったような気がする。 だけど俺はやっと、本当に暁斗さんを手に入れたんだ。 「... へへへ」 「どうしたの？」 「嬉しくて... 。暁斗さんが俺のモノっていうのが... 」 「違うでしょ、響くんが俺のモノ、だよ」 「違う！暁斗さんが俺のー！」 目と目が合って、ぷっと二人で吹き出して笑う。 こんな幸せが待ってるだなんて、想像もできなかった。 「暁斗さん、大好き。」 「俺も、大好きだよ。」 もう絶対に離れないし、離さない。 そう決めて俺は暁斗さんの身体を強く抱き締めた。 ✳✳✳✳✳ 「え、本当に本当に本当にそれだけ？」 あのあと、俺は渋りながらも暁斗さんの部屋に入った。 あの人の残り香があったらどうしよう、とか考えたんだけど、そんなこともなく部屋の中はいつもと何も変わらなかった。 「本当にそれだけ。えーっと... あ、ほら、あったよ。」 暁斗さんは鞄の中を探ったあと、俺に一枚の名刺を渡した。 そこには『三木 彩香』という名前と暁斗さんの働く出版社の名前が書いてあった。 俺が鉢合わせた女の人。暁斗さんがミキと呼んだあの人のことを部屋に入るなり暁斗さんは説明してくれた。 「三木は俺の部下。達郎より上だけどね？で、スマホが使えないから連絡取れなくて俺の忘れたら書類を届けてくれたんだよ。ついでにトイレ貸してって中に入ったけど、あのあとすぐ帰した。」 ミキはミキでもミキ違い。 三木に弥生、紛らわしいから誤解を招いて当たり前だよね、と暁斗さんはまた謝ってくれた。 三木さんは俺くらい、下手したら年下にも見えるような若さを感じたけれど、実は結婚していてお子さんも居るんだとか。 だから暁斗さんとどうのこうの... には絶対にあり得ないらしい。 「でも、もう入れちゃダメだよ？... 女の人。」 「うん。しない、絶対に。約束するよ。」 嫉妬深くてごめんね、暁斗さん。 ここに女の人... ううん、俺の知らない人か入るなんてもう嫌なんだ。 それから暁斗さんは暖房を入れてからソファーに座り、その横をポンポンと叩いて俺を呼んだ。 いつものように横に座れば肩を抱いてくれて、本当に元通りになったんだと顔が綻んでしまう。 「あーあ、離れたくないなぁ... 」 「俺も、離れたくない。... 暁斗さん、今日泊まっていい？」 「もちろん。明日から出張だし、泊まって貰えないと響くんを補充できなくて辛い。」 「あ、そっか... 。出張... ... 」 「３日間がこんなに憂鬱に感じるとはね。」 主任が言っていた通り暁斗さんは明日から出張。 もう一時間もしないうちに日付は変わってしまうのに、暁斗さんと一緒に居れる時間は限られている。 「... ... ... 暁斗さん... ... 」 両思いになる前のことを思えば、３日間なんてすぐのことなのに。 その時間が長く長く感じてしまう。 暁斗さんを３日間分補充しよう、そう思って暁斗さんにギュッと抱き付くなんて... 乙女か！ってツッコミたくなるけれど、これが恋ってやつなんだろう。 「... ... 甘えんぼ。それで足りるの？」 「え... ？」 「俺は足りないんだけどな。」 「あ、暁斗さん... ？」 髪を指に絡めながら、俺を見る目。 それは俺の鼓動のスピードを一気に激しくさせるような、あの色っぽい目。 「響くんを、補充させて？」 暁斗さんがそう言ったのが先か、それとも唇が重なったのが先か... ... ... 気付けば俺は暁斗さんに抱えられベッドの上に居た。