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「あ!見て響くんっ!あれかわいー!」
「どれどれ?... え、あれ?」
「俺あーゆーのめっちゃ好き!ほら見て!」
「... ... 千裕くんの趣味って変わってるね... 」
ショッピングモール内をフラフラしながらプレゼント探しをする最中、千裕くんは雑貨屋にディスプレイされていたとても可愛いとは言えないネコのぬいぐるみを指差した。
タレ目でぶち模様、ヤル気の感じられないでぶっとしたシルエットのそのネコを『可愛い、欲しい!』と連呼する千裕くんに引き笑いするしか無い俺。
「... ん?」
「どうしたの?」
「いや... さっきから何か... 視線が... 」
「視線?」
「気のせいかな。ほら、千裕くん、次いこ!」
そんな俺は少し前から何度か誰かに見られているような気がしていた。
この雑貨屋に来る前の服屋でも本屋でもそうだ。ジッと見られている、そんな感覚。
(... 人混みだから、かな... ?)
ここはショッピングモール。人が多いせいでそう感じてしまうのだろう。
気のせいだと自分に言い聞かせ、千裕くんと次の店へ向かった。
「あ、これいいかも... ... 」
「ほんとだ、これなら実用性あるし特別感もある... 」
自分一人なら絶対近寄ることのない、ロックテイストのアクセサリーショップの前を通ったときだった。
それを見た俺と千裕くんは思わずショーケースに張り付いた。
「いらっしゃいませぇ♪プレゼントですかぁ?」
そんな俺たちに声を掛けてきたのは、ピンクの髪を二つに縛り、耳がピアスだらけの女性店員。
「あ、は、はい... 」
「それ、無料で刻印入れれますよ♪オススメですぅ♪」
「刻印?」
「名前とか、イニシャルとか数字とか!カップルさんは記念日を入れられる方もいますよぉ♪」
「... ... ... 記念日... ... 」
俺と千裕くんが『いい!』と思って張り付いたショーケースに飾られていたのは、暁斗さんと主任なら絶対使うであろう、ジッポライターだった。
デザインは何種類もあって、シンプルなものからイカついものまで様々だ。
でもその中一つ、シルバーのシンプルなデザインのジッポが俺の中で『まるで暁斗さんだ』と思ってしまうほど、しっくりきたのだ。
「俺、これにする」
「... ... 俺も... 」
「ありがとうございまぁす♪♪」
まさかプレゼントが被るとは思わなかったけれど、お互いピンときたのがこれだった。
どのデザインにするかは内緒にして、刻印の内容を派手な店員に伝えると、
「... 喜びますよぉ♪」
って、やけにニヤニヤされたけど。
順番に会計を済ませ、何とか予算内に収まったことに安堵しながら俺たちは手ぶらで店を出た。
仕上がりまで1週間程かかるらしい。
隠し場所にも困るからその方が有り難いな、なんて思っていると、
「彼氏さん、喜んでくれるといいデスネ♪」
と、あの店員がニッコリ笑ってお辞儀した。
それからカフェで休憩し、俺は暁斗さんが帰ってくる時間に間に合うように暁斗さんのマンションへ帰った。
思ったよりプレゼント選びに時間がかかって、夜ご飯を作れなかったのが申し訳なかったから、ショッピングモールの中のスーパーで惣菜を買ってきた。
ご飯をセットして、惣菜をお皿に盛り付ければあとは暁斗さんの帰りを待つだけ。
ソファーに座り目を閉じると、お店で見たあのジッポが頭に浮かぶ。
今までライターだけはコンビニに売ってるような物を使っていたから、これは持っていないはず。シンプルだから仕事中も使えるだろうし、多少手入れの手間はあるけど、それは俺の仕事にしてもいい。
あのジッポを使う暁斗さんの姿を想像すると、顔がニヤニヤしてしまう... 。
「早く渡したいなぁ... ... ... 」
クリスマスまであと10日。
その日が楽しみで仕方なかった。
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