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予定通り1週間で刻印の入ったジッポを受け取り、俺はそれを自宅のアパートにこっそり隠した。 暁斗さんがウチに来ることなんてほぼ無いんだけど、もしかしたらもしかするかもしれないから一応。 23日、この日は暁斗さんが地方に日帰り出張で、俺は帰宅時間に合わせて駅まで迎えに行く予定だった。 会社に持っていくのは嫌だったから、一度自宅に戻って着替えついでにプレゼントを持って待ち合わせ場所に... スケジュールはしっかり決まっていた。 だけど。 「うん、うん...分かった。 ...気を付けてね ... 」 この日朝方まで降っていた雨は雪に変わり、定時を迎える頃には大雪に変わっていた。 窓から見る真っ白な外の景色。 ホワイトクリスマスになるかも!なんて喜ぶことは決してない。 暁斗さんが今居るのは電車で数時間かかる田舎町らしく、今さっき『電車が止まったから今日はこっちに泊まる』と連絡が入ったのだ。 ホワイトクリスマスがなんだ。俺はちっとも雪なんて嬉しくない。 (でも今日は本番じゃないし... 明日帰ってくるなら... ) 明日24日に帰ってくるなら、予定通りではないけれどクリスマスイヴとクリスマス、両日一緒に過ごせれる。 きっとこの雪も明日には止むだろう、そう思いながら、落ち込みながら自宅アパートに帰った。 翌朝目覚めると俺は更に落ち込むことになる。 雪は止むことなく降り続き、テレビのニュースでは『各地で大雪!』なんて報道されている。 都会でこんなに大雪になるのも数年ぶりだとかで、子供が外で雪遊びしている声が聞こえた。 「... もしもし、暁斗さん?」 寝起き早々、居ても立ってもいられなかった俺は暁斗さんに電話を掛けた。 暁斗さんがスマホを買い換えてから電話するのはまだ数回で、慣れない通話に声が裏返ってしまう。 『おはよ、響くん。そっちは雪どう?』 「... 積もってる。それにまだ降ってる。」 『そうか... 。こっちも大雪。電車動くといいんだけど... ... 。』 暁斗さんの仕事は既に片付いたらしく、電車が動き次第すぐに帰れるっていうのに肝心の電車がストップしている。 今日には帰ってくる、お互いそう思っていただけにこの大雪が憎くて仕方ない。 「... ... 会えるかなぁ... ... 」 『大丈夫、昼には止むよ、きっと』 「だと、いいけど... ... 」 『... ごめんね、俺が出張じゃなければ... 』 「お仕事だもん、しょうがないよ。大丈夫、最悪まだ明日があるし... ... 」 『... そうだね。電車が動いたらまた連絡するね。』 暁斗さんの声も沈んでる気がする。 分かった、と返事をすると電話は切れて、俺は布団の中で丸くなった。  結局この日も一日中雪は降り積もり、暁斗さんからの連絡は無かった。 電車が動いたら、と言っていたから、動いていないということなんだろう。 本当ならプレゼントを渡して、今ごろ一緒にベッドで過ごすはずだったのに... そう思わずには居られないほど寂しい夜を一人で過ごした。 そして迎えた25日、クリスマス当日。 雪は止んでいたけど、積もった雪は溶けずにあって、ニュースじゃ飛行機や新幹線、電車がストップしているとか喋ってる。 ここまで来ると、『もう会えないんじゃないか』と俺の気持ちは落ちる一方。 暁斗さんに連絡しようかと思ったけど、今声を聞いたらますます会いたくなってしまう、そう思ってスマホを置いた。 昼までベッドで過ごしたけれど、寂しさは紛れなくて。 もしかしたら帰ってくるかもしれない、淡い期待を捨てきれずにいた俺はプレゼントを持って暁斗さんのマンションに向かった。 本人不在の部屋は冷えきっていて、勝手に暖房を付けてソファーに座る。 暁斗さんの匂いはうっすらしかしなくて、それがまた寂しさを増してしまう。 何をするわけでもなく、時間だけが進み、日が落ちて部屋が暗くなっても俺のスマホが震えることはない。 つまり、暁斗さんが乗る予定の電車が今も動いていないってことだ。 「暁斗さん... ... ... 」 俺がクリスマスイヴの24日とクリスマスの25日を一緒に過ごせることをどれだけ楽しみにしていたか... むしろ俺の願いはこの2日間暁斗さんと過ごすことだった。 暁斗さんからプレゼントが欲しいとか、そんなことは全く思ってなくて、ただ一緒に居れたらいいのに... サンタクロースが居るなら、今すぐ暁斗さんのところに連れていってってお願いするだろう。 「会いたいよぉ...っ」 寂しい。会いたい。寂しい。 我慢していた涙がツゥッと頬を伝った。

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