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食べきれるか不安だった料理は一時間もしないうちに綺麗に無くなって、暁斗さんと主任のお酒はグイグイ進んだ。 前から知ってはいたけど、この二人ってほんとお酒に強い。 俺が日本酒なんて飲んだらすぐベロベロになるのに、顔色ひとつ変えない所が驚きだ。 「いーないーな、俺ものみたーい」 「ばーか、千裕には反省しろっつーの!」 「えー、でも今日は弥生いるし、いーじゃん!」 「だーめ。な?暁斗」 千裕くんはこんなかんじで飲みたい飲みたいと主任におねだりしてる。 呼び方が『アイツ』から『弥生』に変わっているのはきっと無意識なんだろう。 暁斗さんは苦笑いしながら俺を見て、『響くんは飲みたい?』って聞いてきた。 ... そりゃ飲みたいけど、酔うだろうし千裕くんに悪いし... 首を横に降って答えた。 「いーじーわーるー!!いつもならちょっとだけって言ってくれるのにぃー!弥生のケチ!二人の前だからってイイコちゃんしてんの知ってるんだからなー!!」 「はぁ!?イイコちゃんってなんだよ!別に普通だろ!?」 「全然ちがーう!!酔った俺に好き放題すんじゃん!」 「それとこれは話が別だろ!?」 好き放題って... ... !? 目の前で繰り広げられる痴話喧嘩をジュース片手に見る俺。 主任が『イイコちゃん』してるとは全く思えないけど、二人のときはどんな感じなのかちょっと気になる。 俺と暁斗さんは裏表無くいつもと同じ。あ、外で密着度が高かったのはいつもと違うけど... でも食事中の今は大して変わらず普通に食事してるだけ。 「お願いーっ!ねぇねぇみーーきーー!!」 「だぁーっ!もううっせぇなぁ!!そんなに飲みたいなら飲ませてやるよ!ほら口開けろ!」 「やったーー!!って、ちょ!?み... ッ」 そんなことを考えていると、目の前で切れた主任が千裕くんの顎を持って口移しで日本酒を飲ませていた。 「これで満足か?」 「... ... ... にっがぁ... 」 「だから言ったろ。おかわりは?」 「... ... ... い、いらない... ... 」 俺たちが居ること、忘れてるんじゃないか?って言いたくなる公開口移しで痴話喧嘩は幕を閉じたみたい。 俺の予想だけど、二人はこうやってエッチに発展するんじゃないかなぁ... 堂々と口移ししちゃう二人が羨ましいわけじゃないけど、目の前で見ちゃうと俺も暁斗さんとキスとか口移ししたいなーって願望が出てきてしまう。 「... 響くんも?」 「へ!?な、なにが!?」 「いや... 羨ましそうに見てるから、響くんも飲みたいのかなぁって。」 「え!?あ、お、お酒!?お酒の話ね!!うんうん、俺も飲みたくなっちゃうよー、あはは... 」 一瞬口移しのことかと思ってヒヤリとする。 そんなの思っても言える訳がない。 そもそも俺に公開プレイの願望なんて微塵も無いし!! ブンブン首を振って口移しのことを忘れようとしていると、暁斗さんはグラスに日本酒を注ぎ足した。 「はい、響くん」 「あ、ありがと... ... っんん!?」 てっきりグラスを渡してくれる、と思って伸ばした手を握られて、暁斗さんの唇が触れたと思ったら喉を焼くような日本酒が流れ込んできた。 「っ!!暁斗さん!?」 「ん?おかわり?」 「そうじゃなくて!!!!」 「え?だってしたかったんでしょ?顔に書いてあったよ?」 にんまりと笑う暁斗さんは意地悪モードだ。 お酒のせいか口移しのせいか、俺の顔は真っ赤。そんな俺と暁斗さんを見て主任はニヤニヤしている。 「ほら響くん、夜はまだ長いんだし楽しまなきゃ。ね?」 「そうそう。せっかくの旅行なんだから。な?」 そういやこの二人、『鬼』と『悪魔』って異名を持ってるんだっけ... ... ... ? 気付けば俺は暁斗さんの、千裕くんは主任の膝の上に乗せられていて、長い長い夜の宴が始まった。

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