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SS☆2 お兄ちゃん。

SS☆『お兄ちゃん。』 「そういやさ、二人は一応兄弟... ってことになるんだよね?」 それは主任のマンションにて、家主の主任と俺と暁斗さん、そして千裕くんの四人で鍋パーティーを開催した日のことだった。 思い出したかのように質問した千裕くんの一言は、確かに俺も気になっていたことなんだけど、この質問には俺が千裕くんにお願いしたあることに繋がることを知っている。 俺はこれまで暁斗さんの家族のことにあまり触れないようにしてきて、二人があまりに『兄弟』っぽくないから、忘れかけていたけど... 確か二人は高校生の頃に両親が再婚したんだ。 つまり一応どっちかがお兄ちゃんになるんだけど、それがどっちなのか気になっていた。 「うん。そうだよ。」 「あんまりそんな感じしねーよな、16歳で同い年の兄弟ができましたーって。」 そうそう、そうなんだ。二人は同い年。 『どっちかって言えば親友みたい』 と話す暁斗さんと主任は、本当に仲がいいと思う。俺が暁斗さんと付き合う前から二人の関係が気になっていたくらいだし、やっぱり兄弟って雰囲気じゃないなぁ。 でもここで引かないのが千裕くんだ。 「ふーん。じゃあさ、どっちがお兄ちゃんになるの?」 グイグイ質問する千裕くんのようにはなれなくて、俺は『待ってました!』と心の中でその答えを待つ。 ... 同い年の兄弟ってなれば、お兄ちゃんになるのは誕生日の早い方だよな? となればここでお兄ちゃんと答えた方が誕生日が早いってことだ。 実はこの質問の裏には『誕生日が知りたい』という俺のお願いがあったんだ。 付き合う前は『答えたくないかなぁ』って思ってて、付き合った今は普通に聞いたらサプライズ感がなくなるから、って思ってずっと聞けずにいたんだ。 でも流石に彼氏の誕生日を知らないのっておかしいよな? そう思った俺は、どっちがお兄ちゃんなのかって質問と合わせて誕生日を教えてもらうことを考えたんだ。 ... ま、自分で言い出せなくて千裕くんに頼む辺りが情けないんだけど。 見た目は暁斗さんだけど主任もしっかりしてるときは頼りになるし、どっちがお兄ちゃんでもしっくりくる。 二人にこだわりが無さそうだからもしかしたら『そんなこと考えたことなかった』って笑うかもしれないな。 そう、ボヤッと考えながら鍋をつついた時だった。 「「俺に決まってる」」 ーー突然ヒヤリとした空気が流れ、背筋がゾクッとした。 それまでの明るい鍋パーティーの雰囲気が一変し、暁斗さんも主任も箸を握ったまま低い声でそう言った。 「え... ... えーっと... ... ?」 千裕くんがチラリと俺の顔を見る。 その顔は俺と同じ、『なんかヤバイ』って顔で、もしかしたら地雷を踏んだのかと冷や汗が止まらない。 「... おい暁斗、俺が兄貴だってずっと言ってるよな?」 「はぁ?弥生みたいな年中盛りまくったサルみたいな奴が兄貴?笑わせないでくれる?」 「誰がサルだ!お前こそ毎日毎日ヤッてんだろ!?お前の方がサルだわ!!」 「毎日じゃないですー。ちゃんと響くんの身体に負担がかからないように考えてますー。誰かさんとは違うんで。」 「はぁ!?ちょ、表出ろや」 「あーあ、これだから喧嘩っ早い奴は嫌だね。そんなんでお兄ちゃんなんて無理無理。」 目の前で繰り広げられる暁斗さんと主任の会話は、まるで『兄弟喧嘩』。 どちらも自分がお兄ちゃんって譲らないってことがよーく分かる。 分かるんだけどどうしてここまで譲らないのか、その理由が分からない。 というよりなんでここまで喧嘩腰なのか、理解できない... ... 「いいか暁斗、生まれたのが早いのは俺。つまり兄貴は俺だ。」 「それでも中身は俺が兄貴向きだろ?たった数時間の差で偉そうにすんな。」 二人の顔が物凄く怖い。 ああそうだ、今きっと『鬼』と『悪魔』が喧嘩してるんだ。うん、間違いない。 千裕くんとアイコンタクトでそんな会話をしていたとき、主任が暁斗さんの胸ぐらを掴んだことで俺たちも流石にマズイと立ち上がり、それぞれの身体を押さえに駆け寄った。 「ちょ!落ちついてよ弥生!」 「そうそう、暁斗さんも!」 「はぁ!?落ちつけるか!これは16の時からずっと譲れねぇことなんだよ!」 「弥生が弟って認めれば済む話なのにね」 「二人ともちょっとストップ!!!」 「落ち着いてーーーっ!!!」 俺と千裕くんが思いっきり二人を引き離し、間に入っとりあえず殴り合いになることは防げた。だけどこの一発触発って雰囲気、どうしたらいいんだろう。 そもそも二人がここまでお兄ちゃんにこだわるとは思ってなかった... 。あの質問は地雷中の地雷だったと後悔する。 つづく☆ミ

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