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SS☆2 お兄ちゃん ②
「そもそも!なんで二人はそんなにお兄ちゃんを譲らないの?誕生日の差じゃダメな理由でもあるの?」
止めに入ったはずの千裕くんは何故か深入りするような質問をしてしまう。
このタイミングで!?と思えば、やっぱり二人はカッとなって、再び身体を押さえる羽目に。
そんな二人が冷静を取り戻したのは鍋が冷え始めた頃だった。
温め直すよって暁斗さんがキッチンに鍋を持って向かうと、それに続いて千裕くんが俺も手伝いますってキッチンに走っていった。
多分、自宅じゃないのに暁斗さんにやらせるのを悪いと感じたんだろう。
... 主任は換気扇もついてないリビングの真ん中でタバコに火を着けたから。
残された俺は煙を吐く主任と二人、どうしても慣れない匂いに耐えていた。
「... ... 煙たいっ」
「暁斗のタバコで慣れてるだろ?」
「暁斗さんは換気扇の下でしか吸いません。」
「あっそう。昔はそんなことなかったのになぁ、すっかり優等生キャラになってやんの。」
「え?昔はって?」
主任と暁斗さんが出会ったのは再婚した16歳。
となると主任の言う昔とはその頃のこと?
「コレ、俺に教えたの暁斗なんだぜ?」
ニッと笑って右手に持ったタバコを俺に近付ける。
もわっとした煙と匂いに思わず咳き込んでしまう。
それから主任はキッチンの暁斗さんをチラッと見て、まだ温めていることを確認してから小声で俺に言った。
「荒れてた時期は毎日見ればタバコだったわ。部屋なんか煙で息できないくらいでさ。親父の前でもだぜ?」
「怒られなかったの?」
「あいつ頭いーからさ、文句言う隙がないっつーか?成績はトップだし先生の前では優等生、でも、裏では喧嘩三昧、みたいな?親父も喫煙者だからかあんまり怒りはしなかったな。」
「そうなんだ... 。じゃあ主任はいつから?」
「暁斗の喧嘩を止めに行って、めちゃくちゃウザがられた時があって... そんで二人で殴り合いの喧嘩して、そのあとかなぁ。暁斗が1本くれて。思えばその時やっと兄弟って認め合えたような気ぃするわ。」
そう話す主任はちょっとだけ暁斗さんと似たあの優しい顔で微笑んでいた。
二人の思い出話(?)を聞いたところで湯気を立てる鍋を持った暁斗さんと千裕くんが戻ってきて、鍋パーティーは再開。
気にはなるけど一旦あの話はしないようにして、四人で鍋をつついた。
それから雑炊まで食べて、はちきれそうなお腹で洗い物をしようとキッチンに向かうと千裕くんが手伝いにきてくれた。
... やっぱり主任はタバコ中で、家主のくせに一切手伝おうとしないからだろう。
「... 結局聞けなかったね」
「だねぇ。あんな展開になるとは... これじゃストレートに聞くしかないよね。」
「うん。... ありがとね、千裕くん。」
俺がスポンジで食器を擦り、それを千裕くんが洗いながら反省会。
これじゃもう『お兄ちゃん』の話題は出来ないし、回りくどいことするなってことなのかな。
「... ... にしてもさっきの会話だとやっぱり暁斗さんの方がお兄ちゃんっぽいね」
最後に鍋を洗い、千裕くんに渡した。
喧嘩腰の主任の言葉とか、普段の雰囲気とか... 暁斗さんが弟ってイメージは無かったけど、あれを見るとやっぱり暁斗さんがお兄ちゃんっぽい。
そう思っていたけど、鍋を受け取った千裕くんはピクッと俺の言葉に反応して動きを止めた。
「いやいや、お兄ちゃんは弥生だよ。だって暁斗さん、反抗期の弟みたいだったし。」
手の動きを止め、お互いの顔を見る... ...
それがピシャーンと俺たちの間に雷が落ちた瞬間だった。
俺は『どちらがお兄ちゃんか』、その質問の答えは暁斗さんだと思っていたし、きっと千裕くんもそうだと思っていた。
だけどの感じだと千裕くんはそうじゃなかったんだ。
「... ... 悪いけど、主任のどこがお兄ちゃんだっていうの?」
「え?見たまんまじゃん?世話焼きだし面倒見いいし。」
「世話焼きは分かるけど面倒見?どこが?」
「響くん、分かんないの?弥生は仕事もプライベートも面倒見がいいまさにお兄ちゃんだよ?」
その言葉に俺の中でも火がついた。
喧嘩腰ってわけじゃないけど、分かんないの?って言われたら俺でもちょっとはカチンとくるわけで。
「いやいや... さっきの見たでしょ?喧嘩腰の主任に落ち着いた暁斗さん、それに見た目も言葉遣いも暁斗さんの方が大人だしお兄ちゃんだよ。」
「見た目は関係ないでしょー!?弥生は確かにチャラいけどだから弟っておかしい!」
「あるね!関係大有り!見た目は中身に比例するんだよ!」
「しない!!とにかく弥生がお兄ちゃん!」
「違う!暁斗さんがお兄ちゃん!!!」
キッチンで吠える俺たちに気付いた暁斗さんと主任が何事だと目を丸くする。
「お、おいお前ら何... 」
「そうだよ、落ち着いて?」
さっきの自分達のことはまるで棚にあげたように心配そうに近付いてくる。
でも今はこの気持ちを千裕くんにぶつけなきゃ気が済まない。きっと千裕くんも同じだ。
「「うるさい!二人は黙ってて!!!」」
見事に被ったその一言。
そして俺たちはどちらが『お兄ちゃん』っぽいのか、止めに入った暁斗さんと主任を振り払って言い争った。
... ... 結局落ち着いたのはそれから数時間あとのことで、『お兄ちゃん』の話は暁斗さんと主任だけじゃなく俺と千裕くんの間でも禁句となったのだった。
おわり☆ミ
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