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「くっっっそぉぉぉぉお!!!!!」   お昼休みになってすぐ、俺は猛ダッシュで自分の本来の部署、デザイン部に向かった。  叫びながらなんて何事、ってすれ違う人は俺を見たけど、そんなの気にならない。 バン!と『D-5』の部屋を開くと、またしても何事だと言わんばかりに目を丸くする俺の同僚たち。 「...お疲れ、さまです!」 「お、お疲れ...」 自ら千裕くんと主任以外に声を発するのは久しぶりのこと。 正直、今目が合って返事をしたのが田中さんだったか伊藤さんだったか名前は曖昧だ。 「ひーびき、オツカレサマ。」 「...主任、ちょっといいですか!?」 「え?あ、お、おう...」 すっかり元通りの口調に戻った主任が俺の背後から声をかけてきたのをいいことに、俺は主任を捕まえて屋上に向かった。 もちろん話はただ一つ、『営業部』に対する愚痴しかない。 午前中の数時間だけでも俺はみっちりしごかれて、そして営業部のチームワークの良さを痛感してきたのだ。 あんなことを言われて悔しいのに、それなのに今のデザイン部には言い返せるほどの強味がない。 いくら個人の仕事が多いとは言えど、うちの部署には何か足りないのだ。 「ってことです!もう俺悔しくて!!」 「や、まあ落ち着け。そもそもうちと営業じゃ仕事内容が違うだろ?会話が必要ないのも個人仕事がほとんどだから。それはお前がよく知ってるだろーが。」 「そうですけど!そうなんですけど!!!」 俺の見た営業部は、一言で言えば雰囲気が良かった。忙しいのはもちろん分かるんだけど、この中でも会話があってお互いの情報交換をしそして共有する、そんな雰囲気がかっこよかった。 うちの部署は基本的にミーティングもないし、たまにある会議は関係者だけだし、自分の担当をどうにかすればいいって皆が思ってる。 だから会話もないし、情報交換は同じ部屋にいるのにパソコンのメールだ。 「...うちの部署はもっと良くなると思います」 「今だって充分、だろ?」 「違う。全然足りない!俺、決めました。クリファンの企画も頑張るけど偉そうだなの応援も頑張って、もっとここを良くします。山元さんなんかに絶対負けない!!」 「...あー、そう、ですか...まぁ頑張って...」 「主任も努力してくださいね!山元さん、めっちゃ仕事出来る人ですよ!!」 きっと俺たちが山元さんにバカにされたのはそんなところも関係してるんだろう。 ならば文句を言わせないくらい変わればいい。 メラメラと燃える俺はお昼御飯を食べ損ねたんだけど。 そんなこと忘れてしまうくらい、午後は自分の仕事に集中した。 ...会話は出来なかったんだけど、そこは帰ってからゆっくり考えることにして。 ***** 帰り道、珍しく俺のスマホを鳴らしたのは暁斗さんは外食に誘ってくれた。 って言っても時間が遅かったから、久しぶりにあのバー行こうって。 もちろん行くと答えてそのまま現地集合し、俺は暁斗さんと一緒にバーの扉を開いた。 「いらっしゃいませ...おや、久しぶりですね」 「こんばんは!」 「こんばんは。響くん、カウンターでいい?」 俺と暁斗さんが出会ったこのバーは、俺の思い出の場所であって特別な場所。 でも暁斗さんと付き合ってからは一度も来てなくて、マスターに俺たちがどう見えるのか、それが気になってソワソワしてしまう。 暁斗さんは澄ました顔をして注文をしていて、『今日は歩きだから一緒に飲めるね』なんて俺に言うんだ。 そりゃ嬉しいけど、酔ったら甘えちゃいそうで、そうしたらマスターに俺たちの関係がバレちゃうんじゃないかって心配で、俺はノンアルコールのカクテルを注文した。 「どう?応援初日は。楽しかった?」 「うう...。それもう聞いちゃう?」 「そりゃあね?だって、『聞いて』って顔に書いてあるんだもん。」 「うそ!俺そんな顔してた!?」 「響くんって顔に出やすいよね?ここで会うときはいつもそんな顔してた。俺で良ければ聞くけど、どう?」 「...ん、じゃあ聞いて下さい。あのね...」 顔に出やすい、と言われたらもう話すしかない。いや、元々聞いてもらう気でいたんだけど。 遅刻ギリギリで出勤したところから俺の話は始まり、山元さんにバカにされたことと営業部のチームワークの良さ、そして俺の部署であるデザイン部をどうにかして今よりもっと良くしたいと思ったことを話した。 途中から山元さんの言葉を思い出して、沸々と怒りが込み上げてきたから、俺の言葉遣いはだいぶ悪くなっていたと思う。 それでも暁斗さんは、グラス片手に『うんうん』と相槌を打ってくれて、俺は気の済むまで喋り倒した。 「へぇ、それは悔しいね。響くんの気持ちは分かるよ。」 「でしょ!?俺たちだって仕事してるし、営業が偉い!みたいな態度でさぁ。確かに雰囲気は良かったよ?でもそれとこれとは別じゃん!」 「そうだね。でも、なんで響くんはそんなに営業部の雰囲気のことを気にしてるの?そもそも人付き合い苦手だったよね?」 「...苦手。ぶっちゃけ同僚の名前も曖昧。だけどさぁ、なんか...あそこは『みんなで』仕事をしてたんだ。それがなんかこう...いいなぁって。」 「...そっか。うーん、じゃあとりあえず今日は飲もう!響くんもアルコールにしよう?」 「え!?いや、俺は...っ!」 大丈夫だから、と言うより先に暁斗さんがマスターにアルコールを注文していて、結局俺もお酒を飲むことに。 そして案の定、久しぶりの度数の高い飲み物にコロッとやられて、来店から一時間もしないうちに俺はベロベロに酔っ払って暁斗さんの腕に抱き付いていたのだった。

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