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「おはよう...ございます...ケホッ、」
「筒尾くんおはよう。風邪?」
「や、風邪じゃないんですけど...ちょっと...」
「そうなんだ?ま、無理はしないでね」
「はい、すいません...ケホッ、ケホッ...」
暁斗さんにめちゃくちゃ抱かれた翌日、昼過ぎに目覚めた俺は全身の痛みとお尻の違和感、そしてガラガラに枯れた声...エッチの後遺症(と、俺は名付けた)に襲われた。
身体もシーツも俺が意識を飛ばしてからなのか、それとも先に起きたのか...とにかく暁斗さんが全部綺麗にしてくれていて、あれほど激しかった暁斗さんはすっかり元通りのいつもの暁斗さんに戻っていた。
掠れた声の俺に『大丈夫?』って心配そうな顔して聞いてくるところとか、下半身が特に痛くて小鹿みたいにプルプルしながら立った俺をそっと支えてくれたりとか、それはもう優しさの塊みたいな暁斗さんで。
強引な暁斗さんに変わるスイッチは何なのだろう?と気になってしまう。
そんな俺は体調が良いとは決して言えない状態のまま出社したんだけど、もう笑えないくらいにえらかった。
気力はあるのに身体がそれに追い付かないし、営業の基本だっていう声が出ない。
デザインの仕事は座り仕事だし会話も必要ないから良かったけれど、午前中はバタバタ慌ただしい営業の応援。
体調管理はしっかりしろって山元さんに言われてたのに、これじゃ怒られること間違いない。
挨拶してくれた営業部の...確か名前は野田さんだったっけ?...にペコッと頭を下げた俺はその足で既にデスクに座り仕事を始めている山元さんの所に向かった。
「...おはようございます」
「ああ、おはよう......風邪か?」
「風邪じゃないんですけど...ちょっと、」
「...そうか。今日はこの資料をまとめてくれ。そこのデスクを使っていい。」
「あ、はい、了解です」
てっきり『体調管理もできないのか』って言われると思っていた俺は、山元さんのその言葉に驚いた。たいした突っ込みもなく、山元さんのデスクのすぐそばの空いている...というよりいつの間にか増えていたデスクを使って事務仕事なんてラッキーすぎる。
渡された資料に早速目を通し、なんと午前中の応援はこの事務仕事だけで終えることができた。
「お疲れ様でした。また明日よろしくお願いします。」
「ああ。...そうだ筒尾、一昨日はうまくいったようだな?」
「一昨日...っえ!?」
「でもちゃんと言っておけよ?仕事に支障のないくらいにしてくれって。」
「えっ!?えええ!?山元さん!?ッゲホ、」
ちょうど昼休みを知らせるチャイムが鳴り、山元さんはフッと笑いながら部屋を出ていった。
まるで俺が最中に声を出しすぎて喉をやられていることも、身体が痛いことも、その理由まで知っているぞって言うように笑った山元さん。
(...なんで分かったんだ......?)
ますます謎は深まるばかり。
山元さんはよく分からない人だった。
*****
「響くんっ!ご飯いこーっ!」
「う、うん」
「あれ?声枯れてない?大丈夫?」
「大丈夫...かな?」
デザイン部に戻ればニコニコ顔の千裕くんが財布を片手に俺を待っていた。
千裕くんと主任は相変わらず仲良くやってるらしい。
俺が応援に行くようになってから、仕事中は話すタイミングが無いから、こうして週に何度かお昼を一緒に食べる約束をしてるんだ。
「ふぅん?...あ、そっか、分かった。休みの間、激しかったんだね?」
「ちょ!!千裕くん!?」
「えー?だって声が枯れるとかそれくらいしか...それに響くん、今日めちゃくちゃ色っぽいし!」
「そんなこと...!!」
「いいじゃんいいじゃん!あ、パン買って屋上いこ!あそこの方が話聞きやすいし!」
「千裕くん!?俺話すようなこと別に...!」
ニコニコ顔からニヤニヤ顔に変わった千裕くんに腕を引かれ、会社内の売店でパンと飲み物を買った俺たちは穴場の屋上に。
そして千裕くんに一昨日のこと...っていうより激しかったあのエッチの話をすることになってしまった。
千裕くんからもこういう話は聞いていたから、話したくない訳じゃないんだけと、あの日の暁斗さんを思い出すと会社だっていうのに勃ちそうになるから困るんだ。
一通り話すと、千裕くんの顔はこれでもかってくらいにニヤついていて、『よかったねぇ』って言われた。
「実は弥生と心配してたんだぁ。」
「心配?」
「最近響くん仕事が忙しいでしょ?暁斗さんも忙しいって聞いてたから、二人はちゃんと恋人してるのかなぁって。」
「...そうなの?ごめんね、心配かけて...」
「いやいや!これは俺と弥生のお節介。だから二人が幸せならいいんだ!...でも、響くんが暁斗さんのこと忘れてなくて、本当に良かった」
そう言った千裕くんは屋上の手すりにもたれて俺を見た。
「仕事頑張ってる響くん、カッコいいよ。だけど仕事ばっかりで一番大切な人の存在は絶対忘れちゃダメだよ?」
それまでニヤニヤしていたのに、急に真面目な顔をした千裕くん。
ヒュウッと冷たい風が俺たちの頬を撫でて、千裕くんが『戻ろうか!』っていつもの顔で言うまで俺はその言葉の意味を考えていて...何も言い返せずにいた。
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