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「ご、ごちそうさまでした...うぷっ」 「手の焼ける部下を持つと苦労するな。」 「......」 「ほら、食ったんだから聞いてやる。早く話せ。」 「...べ、別に......」 えらく上から目線の山元さんは、布団の横に胡座をかいて座った。 暁斗さんに別れようと言ったこと、それを話せと言うのだろうけど...正直山元さんにも話したくは無かった。 せっかく止まった涙がまた噴き出しそうだったし、最後に見た暁斗さんの顔を思い出してしまうから。 「...恋人の浮気が確定したか?」 「っ!」 「浮気現場に居合わせたとか、か?」 「......」 「それともいざ話をしたら知らん顔された、とかか?」 「.....っ、」 「ああ、もしかして全部当たり、か?」 「...う、るさい...っ、」 それなのに山元さんの口から出たのは全て図星なことばかり。 淡々とそれを口にする山元さんに苛立ちを覚える程だった。 「それで?どうしたんだ?」 「っ、わ、別れようって...言った...」 「お前が?ならそれで終りじゃないか。なんで泣く必要がある?」 「だっ、だって!」 「別れを決めたのはお前、言ったのもお前、悪いのは相手、ならばあとは忘れればいいだろう。」 「...そんな簡単に...忘れられる程軽い気持ちじゃない......」 山元さんは正論をズバズバと言葉にする。 俺に対する優しさとか思いやりとか、そんなの一切無くて、ストレートに言葉を放つ。 それが間違っていないから言い返す俺の言葉は弱々しくなり、小さくなる。 ...暁斗さんならこんな言い方しない。 もっと優しく話を聞いてくれてアドバイスしてくれるのに... 「おい、今何を考えた?」 「えっ、」 「お前は顔に全部出てるんだよ。...だからちゃんと話せと言ったんだ。早い段階で、手遅れになる前に。」 「...すいません...」 「別に謝らなくていい。俺には関係の無いことだからな。」 優しかったのはお粥の味だけ、か。 どんどん惨めな気持ちになる俺は、目線も下がり下ばかり見る。 だけどここまで来ると、言いたくないと思っていたはずなのに俺の口は自然と開いてしまった。 本当いつも不思議に思う、なんで山元さんの前だと言わないと決めたことを漏らしてしまうのか。 千裕くんや主任にはこうはならないのに... 「...嘘、ついて欲しくなかったんです。」 「...嘘?」 「理由があったなら教えて欲しかった。ちゃんと教えてくれたら、全部忘れようって思ってたんです。」 「...で、嘘をつかれたと?」 「...はい。だからもう信じられないって思いました。大好きだけど、信じられなくて...っ、」 「ふぅん...。でも別れようと決めたんだろう?お前が。」 「そう...ですけど...っ」 だけど話して見ても山元さんの態度は変わらない。 慰めるつもりなんかこれっぽちもない。 「泣くほど好きで忘れられないなら別れ話なんかしなきゃいいだろう。」 「...山元さんに、俺の気持ちなんか分かんない...っ」 「当たり前だ。他人の気持ちが分かるわけないだろう。」 「っ、じゃあ!なんで変に優しくするんですか...!話聞いたりアドバイスしたり、今日も助けてくれたり...っ!」 言葉や態度は冷たいくせに、してくれることは正反対、そんな山元さんはよく分からない人。 中途半端に優しくするくらいなら、助けてくれない方がマシなのに。 そう思うと、苛ついた気持ちが口調に出てしまう。 「別に優しくしたつもりは無い。」 「はぁ!?じゃあなんでお粥作ってくれたんですか!?」 「食べなきゃ死ぬ。」 「これくらいで死にません!」 「...お前...もう少し静かに話せ...」 「嫌です!!っ、ああもう!俺帰ります!なんかイライラしてきたっ」 多分、俺は『優しく』して欲しかったんだ。 暁斗さんに出会ってから、ずっと優しくしてきてもらった。 何かあっても頼れて、俺の欲しい言葉をくれて、そんな暁斗さんに甘えてきた。 だから勝手に暁斗さんと山元さんを心の何処かで重ねていて、期待していた。 (暁斗さんと全然違うのに...っ!なんでそんなこと思ったんだ...!!) 最初から嫌味ばかり言う人だったのに、ちょっと信頼できるなぁとか思った自分が馬鹿だった。 やっぱり山元さんは冷たい人。 「お粥、ごちそうさまでした。助けて貰ったのは感謝してます。でももう話さないし仕事以外ではお世話になりません。お邪魔しました!」 勢いよくそれだけ言って、枕元に置かれた荷物を持ち立ち上がる。 さっさと帰ろう。そう思ったのに、襖を開けると左右に廊下が広がっていて玄関が何処なのか分からない。 「おい馬鹿。」 「うっ、わ!?」 「そんなに怒るな。というより何故そんなに怒る?」 「う、うるさいっ!」 「お前は本当によく分からない奴だなぁ。」 「ちょ!?降ろして!山元さん!?」 「ちゃんと食ってるか?軽すぎるぞ。」 後ろからニュッと現れた山元さんは、話ながら俺の身体を持ち上げた。 それは情けない程に軽々しく、抵抗も虚しく元いた布団の上に運ばれてしまう。 確かに体重は増えもしなければ筋肉もそれほどないし、標準以下の体重だって知ってはいるけれど...ムカつく山元さんにこうも簡単に運ばれてしまうと悲しくなってくる。

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