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「あの!山元さん!?」 「なんだ。」 「俺帰りますって!!」 「却下。」 「なんで!!」 「もう夜中だぞ?早く寝ろ。」 「嫌です!ってか何で横!?山元さん!?」 俺を布団の上に降ろした山元さんは、そのまま俺の横に寝そべった。 もうその状況が理解出来なくて、俺の脳内はパニック状態だ。 「ほら黙れ、寝ろ。」 「無理!!嫌だ!帰る!」 「だから却下だと言っている。上司命令。」 「上司もクソもあるか!!!」 なんなんだこの人は!意味が分からない! 今度こそ帰ってやる、廊下をどっちに行けば玄関なのか分かんないけどとりあえずここから出る! そう思って起き上がると、今度は腕を掴まれ思いっきり引っ張られた。 「っ!?」 「今のお前は睡眠不足。だからそんなにカリカリするんだ。」 「ちがっ...!山元さ...離してっ」 「ちゃんと寝たらな。」 引っ張られた先は山元さんの腕の中。 暁斗さんじゃない、他の男の人の腕の中。 そのことにパニック状態の頭は更にぐちゃぐちゃになる。 「な、んで、こんな...っ」 「逃げるから。特に意味は無い。」 「離してっ、ち、近いっ!」 「はぁ?さっきは腕枕までしていただろう?それにお前からすり寄ってきたくせに今更何を言う。」 「そ!それは!ゆ、夢だと...」 「夢?恋人に腕枕される夢か?」 「...っ、」 そうだ、あれは夢だったんだ。 温かさは暁斗さんのものじゃない。 だってもうあの腕の中には戻れないんだから。 そう気付かされると、抵抗する力が抜けた。 『ムカつく』よりも『悲しい』と『寂しい』そんな気持ちが広がったから。 「...観念したか?」 「べ、別に...」 「安心しろ、男相手に何もしない。」 「......」 山元さんの腕の中は温かい。 だけどそれはただ単に体温を感じるっていうだけで、暁斗さんの腕の中とは全く違う。 優しさも愛しさも何もない、探したって何処にもない。 それが分かるから辛くなる。 ああ、俺は一体何をしてるんだろう。 本当なら今日暁斗さんと会うはずだったのに。 なんでこんな人の腕の中に居るんだろう... 「...また泣いてるのか?」 「...泣いてません...」 「...お前は泣いてばかりだな。」 「うるさい...泣いてないっ...」 「敬語を使え、上司だぞ?」 「普通の上司ならこんなことしません。」 「はは、それは確かにそうだな...」 山元さんの手が俺の髪に触れ、ゆっくり大きな手のひらが頭を撫でた。 言葉や態度からは信じられないくらいに優しい動きに、ピクリと身体が反応した。いや、驚いたと言った方が正しいのか... 「柔らかいな、髪」 「...なんで...っ」 「視界に入ったから。それといい匂いがする。」 「ちょっ、嗅がないでください!!」 「いいだろ別に。減るもんじゃない。」 「やめてって!それといい加減離してくださいっ!!」 「嫌だ。また逃げるつもりだろう?」 「逃げませんっ!...だから、離して...っ、」 山元さんのすることは、どこか暁斗さんと似ていて、それが俺をどんどん苦しくさせた。 暁斗さんが髪を撫でてくれたことを思い出し、抱き締められて眠ったことを思い出し、なのに相手が暁斗さんじゃない人だということが苦しくて悲しくて寂しくて、どうしようもなくさせる。 だから離して欲しい、そうお願いした。 なのに、山元さんは真逆のこと... 俺をギュッときつく抱き締めた。 「嫌だ。」 「っや、まもとさ...っ」 「...なんでだろうな。一度腕の中に入れたら離したくなくなった。」 「や、め...っ、苦しっ」 「だからこのまま寝る。」 「はっ!?え!?山元さん!?」 「おやすみ。」 「待って!ちょ!力加減!どうにかしてっ!」 「........」 山元さんの胸元に顔を埋めるしかない俺。 『おやすみ』と言った山元さんは、それから俺の呼び掛けに返事をすることはなかった。 規則的な寝息が聞こえても何故か腕の力は弱まらず、身動きがとれない。逃げるもなにも、これじゃ寝返りだって出来やしない。 「嘘だろ......」 どうしろって言うんだ? このまま眠れるはずない。 そう、思ったのに... 久しぶりの人の体温は俺の眠気を誘う。 暁斗さんじゃない、分かっているのに安心するのはなんでだろう? 微かに聞こえる山元さんの心臓の音を聞きながら、ゆっくりゆっくり俺の瞼は閉じていく。 「...おやすみ、響」 うっすらと目を開けた山元さんが、優しくそう囁いたことなんて知らないまま、俺は完全に眠りについた。

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